【寄付集めの成功例に迫る】プロジェクトを絞り込み次世代への支援を訴求~熊本県高森町~
2021-11-24 08:00:00
山と電車

財政に余裕がない多くの自治体にとって、企業版ふるさと納税による寄付は政策を進める上でも重要な役割を果たしています。今回は2020年度の1年間で1億4760万円もの寄付を集めた熊本県高森町の取り組みを紹介します。自治体がどのようにこの制度と向き合っているのか。そこには寄付をいただくことへの強い思いがありました。

プロジェクトを厳選し、事業内容を明確に発信

村上純一さん
今回、話を伺ったのは、熊本県高森町で企業版ふるさと納税を担当する村上純一さん。寄付を得るために、企業に直接働きかけたりプロジェクトの認知度を高めるためのPRを行ったりと、様々なことに取り組んでいます。内閣府や民間企業が主催する企業と自治体のマッチング会にも積極的に参加するなど、寄付獲得に奔走する日々を送っています。

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「ICT教育・GIGAスクール構想TAKARAの杜」プロジェクト

エンタメ業界と連携した熊本県立高森高校「漫画関連学科」による高校魅力化プロジェクト

いま、高森町では、この3つのプロジェクトで企業版ふるさと納税による寄付を呼びかけています。共通するのは、プロジェクトの内容が分かりやすく、寄付金の使い道が明確であるということ。

「寄付するということは、利益を従業員や株主に還元するのではなく、CSR活動に使うということ。これは企業としても覚悟がいることで、株主総会や役員会で同意を得るためにも、寄付金の使途を明確にしてほしいという要望はよくいただきます」と村上さん。「本当は、もっといろいろな事業で寄付募集を行いたいのですが、皆さんの共感を得やすいプロジェクトに絞り込みました」と続けます。

これらのプロジェクトは、震災からの復興やICTを活用した子ども教育、高校に漫画関連学科設置と、内容が目を引きやすく、しかも何をするかが明確です。では、共感を得やすいプロジェクトとはどのようなものでしょうか。

未来への投資は共感を得やすい

授業の様子
この3つのプロジェクトには、ほかにも共通点があると村上さんは考えています。

「どれもが未来への投資であるということ。高森町長もそうですが、高森町とエンタメ業界と連携した町づくりについて連携事業に取り組み、漫画関連学科の設置プロジェクトを共同で推進する漫画出版社コアミックスの社長も、人材育成や教育といった若い人にチャンスを与える『未来への投資』にこそお金やエネルギーを費やすべきと考えています。これも寄付募集プロジェクトを絞り込む際に重視した点です」と村上さん。

企業版ふるさと納税を長年担当してきた経験からも、次の世代につなぐための施策には寄付が集まりやすいという手ごたえをつかんでいるそう。
「これならいけそうだという絞り込みは大切ですね。あとはプロジェクトをいかに多くの人に知っていただくか。プロジェクトの認知度を上げることで、寄付をいただくチャンスは格段に広がります」

町長のトップセールスが多くの寄付につながる

これまで、企業版ふるさと納税に携わってきた村上さんですが、「私が担当した寄付は町長がトップセールスで賛同を得た額には遠く及びません」といいます。「2020年度にいただいた寄付のほとんどは町長が直接働きかけた結果。トップ同士の交渉は話がまとまりやすいというのはありますが、町長の営業力にはかないません」と、町長のトップセールスには舌を巻いている様子。
高森町長
高森町長は普段から、行政も自分で稼ぐ時代だ、行政運営ではなく行政経営が必要だと職員を鼓舞しており、フットワークや人脈、SNSなどをフルに活用しての営業を、自らが率先して行動しているといいます。その成果もあってか、庁内には「財源をしっかり確保してから政策を進める」という意識が強く浸透しているそう。
「トップダウンの明確な指示と町長自らの行動姿勢で、庁内の調整は図りやすいです」と村上さん。求心力の強い町長の存在は、寄付獲得にも大きく貢献しているようです。

企業との良好な関係を大切に。町の思いを伝えたい

寄付企業への感謝の様子
「寄付をくださる企業は、町を応援してくれるファンであり、仲間だと思っています。寄付を通して、町に関わってくれる人の数が増えることにも期待しています。また、こうした方々はいつまでも大切にしていきたいですし、いい関係を続けていきたいとも思っています」と村上さんは話します。「できる限りの恩返しをしたいですね」と、寄付企業への感謝の気持ちを忘れません。

高森町にとって、寄付をいただくことは、お金だけではなく企業とのご縁をいただくことという気持ちが、話を通じてよく伝わってきます。

「我々の取り組みに1人でも多くの方に興味をもっていただければ。些細なことでも歓迎しますのでいつでもご連絡をお待ちしています」と、村上さんは言葉を結びました。