熊本地震の記憶と経験を活かした、災害に強いまちづくりに挑む!~熊本県益城町~
2022-03-25 08:00:00
震災遺構の国天然記念物 布田川断層帯 杉堂地区 潮井神社の状況

(写真)震災遺構の国天然記念物 布田川断層帯 杉堂地区 潮井神社の状況


2016年4月に発生した熊本地震は、県内各地に大きな被害をもたらしました。特に震源地に近い益城町においては、震度7を2度観測したこともあり被害は甚大で、多くの命も失われてしまいました。

町では、この震災から得た教訓を活かし、災害に強いまちをつくるべく動き出しました。震災の記憶を継承する震災遺構などの整備を進めつつ、協働・共創のまちづくりに取り組んでいます。特に、まちづくりの拠点となる復興まちづくり支援施設プロジェクトは、企業版ふるさと納税の寄付対象事業として進められ、2022年4月に復興まちづくりセンターとして運用開始となっています。

そこで、同施設のことや今後のまちづくりについて伺うため、益城町役場の企画財政課財政係長の藤田智久さん、復興整備課まちづくり推進室主査の後藤健介さん、企画財政課財政係主査の千代田卓さんに集まっていただきました。

2022年4月、復興まちづくりセンターの供用が始まる!

建設物のビジョンイラスト
まずは、復興まちづくり支援施設プロジェクトの経緯から伺いました。

「町では、熊本地震が発生した2016年のうちに復興計画を策定。その後、各地域にまちづくり協議会を設立して、災害に強い、協働・共創のまちづくりを住民と行政が一体となって取り組んでいるところです。役場を中心としたエリアを震災の記憶継承の中心都市にするとともに、賑わいづくりも進める『都市拠点におけるにぎわいづくりビジョン』も策定しています。そして2019年には、復興まちづくり支援施設(仮称)建設基本計画を策定して、同施設(現在の復興まちづくりセンター)の整備を始めました」。

「今後は、復興まちづくりセンターの北側に役場新庁舎を建設する予定です。さらに新庁舎と復興まちづくりセンターの間には震災記念公園を、同センターの隣には交通広場を整備することで、一帯に、行政と公共交通機関を集中させる予定です」と教えてくれたのは後藤さんです。
新庁舎を中心としたエリア一帯は、「気軽に集える住民活動と交流の場」「熊本地震の記憶の継承の場」「災害に備える場」という3つの機能をもつといいます。その第一歩となる、復興まちづくりセンターの供用開始は2022年4月です。

復興まちづくりセンターを、協働・共創のまちづくりの拠点に

震災遺構の国天然記念物 布田川断層帯 堂園地区 右横ずれ断層
(写真)震災遺構の国天然記念物 布田川断層帯 堂園地区 右横ずれ断層


復興計画の最初の段階である建物づくりは順調に進んでいるようです。ではまちづくりのソフト面、住民参加の仕組みについてはどんな状況でしょうか。
「例えば熊本大学・ましきラボによる、住民と行政のつながりやまちづくり活動の支援など、様々な施策を行っています。ただ住民の皆さんからは、協働・共創のまちづくりといわれても何をして良いかわからないという声が上がっているのも事実です。一方では、町が主催する木工教室などの住民参加型イベントを通じて、地域を活性化していこうという思いが住民の間で広がってきたとも感じています。そういう思いを大切にするためにも、復興まちづくりセンターを、まちづくりの拠点にふさわしい場にする計画を進めています。同センターは、ホテルロビーのように、誰もが自由に使える施設であることを条例で定めているのですが、実はまだ、備品や什器は最低限しか用意していないのです。そこで、(住民の皆さんが)自分たちの手でつくり上げていく施設だと認識してもらえるよう、木工教室でつくられた椅子などを利用することも考えています。今流行の街角ピアノのように自由に弾いてもらえるピアノも設置したのですが、これは、前副町長からの寄付なんです」。

応援していただく皆様への恩返しは、力強く復興を進めていくこと

震災遺構の国天然記念物 布田川断層帯 谷川地区の共役断層
(写真)震災遺構の国天然記念物 布田川断層帯 谷川地区の共役断層

ところで、益城町には全国的にも貴重な、肉眼で見ることができる地震断層が何カ所もあることをご存じでしょうか。藤田さんが詳しく教えてくれました。

「3つの活断層が町内を走っていて、震災時に大きく表出した地表地震断層が何カ所かあります。そのうち布田川断層帯に属する3カ所は、国天然記念物の指定を受け、震災遺構として保存していますので、(制限もありますが)見学も可能です。ほかにも、地層の横ずれや地滑りの痕跡が数カ所あります。これらは未整備で危険な場所もあるため、現在、環境整備を進めているところです」。

町内各所に遺る地震断層からも、震災復興の歩みの大変さが想像できます。

「都市計画事業によって家に帰ることができない方が、まだ、仮設住宅にいらっしゃるという状況ですが、90%程度は(復旧・)復興しています。これまでには、全国の皆様から頑張れというお声をたくさんいただきました。やはり(復旧・)復興をしっかり進めていくことが、応援していただく皆様への恩返しになると考えています」。

続けて寄付について教えてくれたのは、千代田さんでした。

「2021年度には、首都圏の企業様から寄付をいただきました。これも、復興支援の思いを込めてご支援いただいたものだと理解しております」。

災害に強く、賑わいのあるまちづくりを、住民主体で進めていく

若者・学生がまちについて語りあう「未来トーーク」会議の様子
(写真)若者・学生がまちについて語りあう「未来トーーク」会議の様子

復興とまちづくりの、次の一手はどのようなものになるのでしょうか。
「これまでは企業版ふるさと納税の寄付対象プロジェクトとして、復興まちづくりセンターの建設に特化して取り組んできました。今後は、震災記念公園の整備に加えて、国土交通省が進める『まちなかウォーカブル推進プログラム』にも取り組んでいるので、歩いて楽しい歩道の整備や、地震断層をさらに整備して見学してもらえるルートづくりなどを進める方針です。また、現在町の特産物が揃う場所がないため、すべての特産物を集めた地域セレクトショップを、新庁舎のあるエリアに整備する計画もあります」とした上で、後藤さんはさらに続けます。

「益城町にとって何より重要なことは、住民と行政が一体となって災害に強いまちづくりを進めることだと思っています。そこで、例えば炊き出し場所や避難ルートを設定するにも、まずはどの場所が集まりやすいか、どの避難場所が逃げやすいかなど地域の皆さんの意見をしっかりと聞いた上で、行政がそれを受けて整備を進めているところです。今後は、寄付していただく資金を、あらゆる復興整備の費用に充てることも考慮していく予定です」。

最後に企業へ伝えたいことを伺うと、千代田さんは次のように語りました。

「寄付をいただいた企業様への提案として、(熊本地震の経験を広く発信するための)語り部もおりますので、震災遺構をつかった研修旅行なども考えています。その上で、企業様と町が継続的に交流していくことができれば幸いだと考えています」。
(オフィス・プレチーゾ 桜岡宏太郎)

【熊本県・益城町】復興まちづくり支援施設プロジェクト