市民、企業、行政が一体となってカーボンニュートラルに向かう、逗子市のいま~神奈川県逗子市~
2022-03-22 08:00:00
海岸線と町並みの上空からの様子

私たちが避けては通れない、脱炭素社会実現という難題に取り組む自治体が増えています。そのひとつである逗子市は、市の特徴を活かし、住民と市が一体となって取り組みを進めようとしています。
取り組みが始まって少し経過したいま、その進捗状況や新しく見えた課題などについて、逗子市環境都市部環境都市課の坂本秀文係長(=写真下)にお話を伺いました。

まずはやれるところから進めていこう

逗子市環境都市部環境都市課の坂本秀文係長
最初に、脱炭素社会実現に向けたプロジェクトの経緯を尋ねてみました。

「逗子市では、これまでにも(ゴミの焼却量と最終処分量を減らし、温室効果ガスの排出を低減させるために)ゴミの有料化などに取り組んできました。ただ、温室効果ガスをどう低減していくかを考えた時、化石燃料に頼らない再生可能エネルギーをいかに普及、促進させていくかがポイントになります。そこで、まずは行政が率先して導入すべきだということで、2021年の4月にゴミ処理施設の環境クリーンセンター(=写真下)と下水処理施設の逗子市浄水管理センター、下水処理関連施設の新宿中継ポンプ場の3施設に導入したのが最初です」。

「最初はできるところからやるんだという思いで始めましたが、今では市内の小中学校7校と高齢者センターを含め合計11施設、使用電力量にして696万kWh(2020年度実績)分が再生可能エネルギーになっています。これは、市の施設全体の使用量の約65%に相当します」。
白い建築物

再生可能エネルギー導入の最大の課題は、市況の動き?

走り始めた逗子市のカーボンニュートラルに向けたチャレンジですが、取り組むなかで、課題は見つかっているのでしょうか。
「一番の問題は電力料金です。電力市況はなかなか難しく、石油価格や電力需要などの変動の影響を受け、現在価格が上昇している状況にあります。予算を超えてまでも再生可能エネルギーを調達することはできませんので、思い通りに進められないところがあります」。

また坂本さんは、現状では市役所への導入は難しいことを教えてくれました。

「市役所というのは、日中電力を使う施設です。24時間稼働する施設の場合はスケールメリット(多く集まることで大きな結果がでること)がありますが、通常日中のみ稼働する単独の施設ではそれが望めません。小売り電気事業者さんは赤字では動けないので、スケールメリットをつくり出さないとならない。そこがまだ市役所に導入できていない理由のひとつです。市役所での導入に向けては、同じ特性の施設を束ねるような工夫が必要だと考えています」。

2050年カーボンニュートラルの実現に向けた、新たな取り組み

いくつかの課題を踏まえ、今後のプロジェクトの進め方について聞いてみました。

「2022年の1月31日には、国が進めている『2050年カーボンニュートラルの実現』に呼応して、逗子市でも実現を目指して行動をすることを表明しました。ただ、再生可能エネルギーを導入するだけでは(地球)温暖化は止められないので、考えられるあらゆる取り組みを総動員する必要があると思っています。例えばこれまで以上の大胆な省エネやエネルギーを蓄え(畜エネ)、効率よく使う取り組みを進める必要があると考えています」。
さかな観賞会の様子
(写真:さかな観賞会の様子)

「逗子は大きな企業も大きな工場もなく、海や山があって住宅街が広がる、いわば住宅都市です。大きさも、同じ神奈川県の横浜市や川崎市などと比べるとコンパクトです。そのなかでカーボンニュートラルを達成するには、市の取り組みに加えて、市民の皆さんにもライフスタイルを見直してもらうことが重要だと考えています。2022年度には、市内における温室効果ガス削減や再生可能エネルギーの導入のための調査・研究を行い、その結果を踏まえたカーボンニュートラル実現のビジョンとシナリオを、市民の皆さんにわかりやすく提示する方針です」。

市民の協力こそ、カーボンニュートラル実現への鍵

中学生の授業の様子
(写真:中学生を対象にした環境問題の授業)

逗子市では、毎年6月に開催している「ずし環境フェスティバル(2022年からは、ずしグリーンライフフェス)」など、市民団体と協力して、環境問題に対する市民の理解を深める施策も積極的に行っています。
「行政の職員だけではカーボンニュートラルは実現できません。市民の皆さんと協力することが最も大切だと思っています。そのためにも、市民や事業者の皆さんの活動を支援できる体制を整えたいと思います」。

「2022年1月に、逗子市でも2050年カーボンニュートラルの実現を目指すことを表明したところ、期待するたくさんのお声をいただきました。逗子市にお住まいの方の多くは、逗子の自然やまち並み、まちの暮らしを大切に思い、環境活動にも積極的です。また行政職員と市民の距離が近くコミュニケーションが取りやすいことも特徴で、雰囲気づくりも含めて逗子市らしさを活かしたいと思います」。

電力の供給量に需要量を合わせるディマンドリスポンスの導入も検討しているようです。

「実証実験として市内でご賛同いただける世帯においては、電力が逼迫する時間帯には使用する電力を下げていただき、節電された分については、特典が付くようなシステムをイメージしています。また市民や事業者を対象に、太陽光発電パネル、エネファーム、電気自動車の充給電設備導入に対する補助制度をスタートさせます。さらに、公用車に電気自動車を導入し、公用車として使用しない土日にはカーシェアリングとして貸し出す方針で、2022年度から実施します」。

最後に、企業に向けてのメッセージを伺いました。

「市内をフィールドにした実証実験、新たな脱炭素に向けたこれまでにない取り組みなど、様々な提案やご意見をいただきたいですし、併せて市からも提案させていただきたいと考えています。寄付にとどまらず、逗子市の住民と一緒に、脱炭素に取り組んでいただける企業さんとお話をさせていただきたいです」。


「市民、業者、行政が一体となって、まち全体でカーボンニュートラルの実現に向けて歩んでいきたい」という坂本さん。担当者というだけではない、熱い思いが伝わってきました。
(オフィス・プレチーゾ 桜岡宏太郎)

【神奈川県・逗子市】温室効果ガス削減事業を推進し、脱炭素社会を実現