スマホじゃなくて目の前の景色を見てごらん。熊本県上天草市、映画によるまちづくりで地元の魅力再発見
2022-03-09 08:00:00
里山と漁港の様子

熊本県上天草市では、映画によるまちづくりが進められています。このプロジェクトは、映像作品のロケ撮影誘致や、映画祭の開催などを通じて、市の認知拡大を図りながら、地域の人たちの地元愛を醸成しようというものです。

人口流出傾向に対する危機感、地域の若い人たちのへの期待など、郷土に対する様々な思いを抱えながらこの取り組みに関わる上天草市企画政策課の鬼塚正ニさんと竹川公美子さん。二人は映像の力が地域に変化を起こしつつあると、期待を寄せています。

止まらない人口減少。戻りたいまちになるために

「まちの良いところを聞かれたら、ほとんどの人が海と答えると思います」。竹川さんがそう話すように、熊本県の西部にある上天草市は、大小の島々で構成され、様々な海の表情に出合えるまちです。

そんな風光明媚な上天草市も、人口減少と高齢化の波に晒されています。「休日に子どもが歩いているところを見る機会が減りましたね」。鬼塚さんは、市の現状をそのように話します。

上天草市には市内唯一の高校である上天草高校がありますが、中学生の約7割が市外の高校へ進学するため、同校の入学者は、今年度はひと学年50人前後となっています。さらに同校卒業生の約半分は市外へ転出してしまうそうで、人口流出は深刻なものになっています。

「もっと地元を愛してほしい」。上天草市で生まれ育ち、まちの変化を目の当たりにしてきた鬼塚さんと竹川さんは口を揃えていいます。「地元を離れることは悪いことではないと思います。でも、いつかは戻りたいと思ってもらえるようなまちにならなければと感じています」と、竹川さんは話します。
海にかかる大桟橋

映画の舞台が地元であることに地域の人たちが感じた誇り

上天草市はもともと観光資源が豊富なまち。市は以前から映像を用いた魅力発信に取り組んできました。人気YouTubeチャンネル『ロバート秋山の「クリエイターズ・ファイル」』とのコラボレーション動画が累計再生回数が600万回を超えたり、人工物などの環境を利用してアクロバティックな動作を行うスポーツ、パルクールを生かした観光プロモーション動画が全国広報コンクールで総務大臣賞を受賞するなど、映像による上天草市の魅力発信は徐々に成果を上げ始めていました。

2020年には「上天草ムービーフェスティバル」を初開催。市内を舞台とする短編映画『島のシーグラス』を含む作品の上映などを行いました。来場者の多くは開催地に住む人でしたが、映画として映し出される地元の姿に、おじいちゃんおばあちゃんたちは驚きの声を上げながら感動していたといいます。「狭い路地や歩きにくい階段って、歩くときはすごく嫌なんですけど、映像のなかだと趣があって良く見えるというか」。竹川さんも、普段当たり前に見ている景色が映画のなかでは違って見えることに驚いたといいます。

「まちの景色や生活の様子が外に発信されるということに、皆さん誇りをもたれているようでした。そういう様子を見ていると、地元を誇りに思ってもらうための一番有効な方法が映像なのかなとも思いました」と、鬼塚さんは映像作品による郷土愛の醸成に手応えを感じたと話します。
ゆるキャラと撮影スタッフがロケしている様子

もっと窓の外を見てごらん」。地元の魅力再発見

そうした期待感を背景に、映画によるまちづくりが本格的に動き始めます。2021年には市、地元の観光協会や婦人会、委託業者などで構成された「かみあまくさ↗フィルムコミッション」を設置。映画、テレビドラマ、CMなどのロケ撮影の誘致や、上天草ムービーフェスティバルの開催に取り組んでいます。

また、かみあまくさ↗フィルムコミッションは、若い人たちの地域愛の醸成にも力を注いでいます。今年の1月には天草地方を舞台とした映画『のさりの島』の監督で、京都芸術大学教授でもある山本起也さんによる講義を上天草高校で開催。そのなかで山本監督は、用意した写真を生徒たちと見ながら、「もっと窓の外を見てください」と、バスでの通学中にスマホばかり見ているという生徒たちに語りかけました。それは、君たちのまちはきれいなものであふれているよ、という山本監督からのメッセージでした。
スクリーンに見ている映像を一緒に見ている様子

地域の人たちの集まる場・活躍の場の創出

まちの担い手不足で地域の祭りやイベントが無くなっていくなか、かみあまくさ↗フィルムコミッションの活動が、世代や立場を超えて地域の人たちが「集まる場」、「活躍する場」にもなっています。
撮影の様子
鬼塚さんは今後の事業の展開について期待を込めてこう話します。「去年の10月からイタリア出身の映像クリエイターが上天草の地域おこし協力隊員として来てくれています。こういう方の活躍の場としてフィルムコミッション事業がうまくリンクしていけば、おもしろくなるのではないかと思っています」。

外からきた人が市の魅力を映像作品にして発信し地域の人たちにも届く。地域の人たちは映像作品から地元の誇りを受け取る。このサイクルから、地元愛が醸成されていきます。「戻りたくなるまち」へ生まれ変わる歯車が今、動き出しています。
(菅原一杉)


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