公立高校では全国初、プロが教える漫画関連学科開設へ。 熊本県高森町「将来の子どもたちに誇れるまち」への挑戦
2022-02-16 08:00:00
学生たちの集合写真

熊本県高森町は熊本県教育委員会などとともに、町内の県立高森高校に公立高校では全国初となる「漫画関連学科」を新設するための準備を進めています。地方にいながらプロの漫画家や編集者から直接学べるという特色ある取り組みです。
その背景には、地域唯一の全日制高校がなくなってしまうかもしれないという危機感があります。「まちなかを子どもが歩かなくなり、当たり前の日常がなくなってしまう」。この取り組みを進める高森町職員の村上純一さんはそう語ります。
公立高校で全国初となる漫画関連学科の新設を通じて、「将来の子どもたちに誇れる高森町」を体現するための挑戦が始まっています。
(写真提供:高森高校)

人気漫画出版社が全面協力し「プロから直接学べる」環境を

学生たちの発表の様子 アニメキャラクターのイラスト
阿蘇山麓の南東部に位置する高森町は熊本県教育委員会などとともに、町内にある県立高森高校に、公立高校としては全国初となる漫画専門学科の新設を計画。2023年春開設を計画し、準備を進めています。

タッグを組むのは『北斗の拳』や『終末のワルキューレ』、『ワカコ酒』など人気漫画作品を扱い、高森町内に「第二本社」をもつ株式会社コアミックス(東京都武蔵野市)です。漫画関連学科では、プロの漫画家や編集者を講師に迎え、東京や熊本市にある編集部ともオンラインで結ぶことで「田舎に居ながら、都会と同じようにプロから直接学べる」という環境を目指します。

コアミックスは、熊本市に漫画家への入口となる「コアミックスまんがラボ」、高森町には漫画家や劇団といったアーティストを育成する拠点「アーティストビレッジ阿蘇096区」を設けているほか、世界中から漫画家志望者を集めて育成する「くまもと国際マンガCAMP」の開催など、熊本県を「日本の漫画文化の新たな発信地」として位置づけ、精力的に活動しています。町はコアミックスと連携協定を締結し、漫画関連学科新設を目指し県などに働きかけてきました。

「まちを子どもが歩かなくなる」。日常がなくなることへの危機感

學校構内の様子
高森高校は、南阿蘇地域唯一の全日制高校ですが、2010年ごろから入学定員に対して大幅な定員割れが続いており、2021年度は定員80名に対して22名しか生徒がいませんでした。長年「地域になくてはならない学校」として、教育的な役割ばかりでなく、文化・地域振興の中心的な役割を担ってきましたが、高森町総務課の村上純一さんは、「このままでは次の高校再編の流れになった場合は廃校になってしまいかねません」と危機感を募らせています。

村上さんは「まちなかを子どもが歩かなくなり、当たり前の日常がなくなってしまう」と強調します。「当たり前の日常がなくなる」経験として、村上さんは、2016年の熊本地震で南阿蘇鉄道が不通となり、踏切の音が鳴らなくなったことを挙げました。町の人々にとって、かけがえのない日常を失いたくないという思いは切実なものです。

親が嫌だといっても子どもが「入りたい」という環境を

學校校舎の全体図イラスト
高森町は、町内全域と全家庭・事業所に光ファイバー網をいち早く整備し、各学校にもWi-Fiのアクセスポイントやクラウド環境などを整え、最先端で教育の情報化(ICT教育)を進めていています。町内の全小・中学校の児童・生徒にはタブレットPCを配布し、コロナ禍での教育環境の変化にもいち早く対応することができました。

また、高森高校も、グローバルな視点をもちながら地域社会の発展に貢献する人材を育成する熊本県の「スーパーグローカルハイスクール」の指定を県から受けるなど、ICT(情報通信技術)の活用はもちろん、国際交流や地域の課題解決にも視野を広げた先進的な教育を実践してきました。
漫画関連学科も、先進的な教育の場とするための準備が進められています。漫画の創作に欠かせない最新の機材を備えるほか、東京や熊本市にいるプロの講師から直接指導を受けるためのオンライン環境の整備などに取り組む予定です。

さらに町は、全国から集まる生徒たちが暮らす学生寮の整備を進めています。既存の施設を現代の学生の生活スタイルに合わせた住環境にすべく、改修を行っています。
村上さんは、「漫画を学びたくても、いきなり田舎の学校に入学するのは不安が伴いますよね。その不安を払拭したいと思います。草村大成高森町長からは直々に、『親は嫌だといっても子どもたちが入りたいという寮にするように』と言われています」と語ります。

高校の存在は町の矜持。これからもチャンスを与え続けられる町に

学生たちの集合写真
高森町は、漫画関連学科の新設を通じた高森高校の挑戦を町の重要な施策に位置づけています。今後は、漫画家を志す生徒たちを全国から募るプロモーションにも力を入れる予定です。地元の高校存続に懸ける地域の人々の思いは熱く、町民からも今回の学科新設に期待する声が高まっているといいます。

村上さんは「高校の存在は、町民の矜持となってきた。高森町をこれからも、夢をもってがんばる子どもたちにチャンスを与え続けられる町にしたい」と言葉に力を込めます。漫画に特化した学科を設け、町の新たな将来を描くという高森町の挑戦は、まだ始まったばかりです。
(イーストタイムズ 栗田宏昭)

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