地域の人が自慢したくなるまち、大月市を目指して! 外の視点をもって気付く「当たり前」からの脱却
2022-02-03 08:00:00
2人の女性

山梨県大月市は、まちの至るところから富士山が望める、ハイカーに人気のエリアです。その一方で、いかに観光客の滞在価値を上げるかが大きな課題になっています。

そんななか、大月市の魅力の発掘・発信に奮闘する2人の女性がいます。大月市観光協会の井上さち江さん(=写真右)と坂本朱美さん(=写真左)です。2人は、山梨県上野原市出身で大月市在住。観光協会に勤める以前は、大月市に現在のような特別な愛着はなかったそうですが、観光案内所で観光客とコミュニケーションを取るなかで、暮らしていると「当たり前」に思えていた景色が「大月ならでは」の景色へと変化し、特別な存在になっていったといいます。

そうした見え方の変化を人々に発信し、伝えることで、地域の人たちが思わず自慢したくなるような大月市に変えていきたい、と愛と情熱をもって奮闘する2人が考える、大月市の魅力や今後の展望についてお話を伺いました。

通過型観光地を脱却し、どのようにして滞在価値を上げるか

山々に囲まれた街並み
山梨県大月市は、自然環境にとても恵まれた地域です。まちの至るところから富士山を望むことができる恵まれたロケーションに加え、低山でスリルがある山が多いため、登山を楽しむ人たちに人気のエリアとなっています。山梨県東部の玄関口として古くから交通の要衝として位置付けられ、東京都心から車で1時間30分ほどと、アクセスも良好です。

しかし、訪れた人が登山後には地域に滞在せず、そのまま帰ってしまうケースがこれまで多く見られたといいます。いかに滞在価値を上げるかが、大月市の観光における大きな課題になっています。

その課題を解決する取り組みの一つとして、これまで大月市は「大月桃太郎伝説」をベースにしたシティプロモーションを展開してきました。桃太郎の伝説にまつわる名所や地名が点在する大月市。近年は関連商品の開発や「桃太郎サミット」の開催など、まち全体で桃太郎伝説の舞台を楽しむことができる企画に力を入れています。
机の上に並んだパンフレット

「当たり前」になっていた、いつもの景色。観光客に教えてもらった「ならでは」の魅力

井上さんと坂本さんの仕事は、観光による地域づくりを実現するため、観光案内所で観光客とコミュニケーションを取りながら、大月の魅力を外部に情報発信していくこと。そして、そこで得た要望や期待値をイベント企画や商品開発などに変換していくことです。

上野原市出身で結婚を機に大月市で暮らすようになった井上さんと坂本さん。大月の印象をお聞きすると、「正直、観光協会で仕事をする前は、特別な愛着はなかったんです。大月を離れたいと思っていた時期もあるんですよ」と、坂本さん。なんとも素直な返答が返ってきました。しかし、観光協会での仕事を始めてから、その印象が大きく変わり始めたといいます。

「大月の魅力を探すため、休日に家族を連れてトレッキングに挑戦したり、まち歩きをしたりするようにしました。それをなんとなく発信しているうちに、周りの人から『この風景って大月なの?こんなにきれいだなんて知らなかった!』と言っていただく機会が増えてきたんです」。
山々に囲まれた畑と電車
大月の魅力を再発見する大きなきっかけになったのは、大月を訪れる観光客でした。
わざわざ高い電車賃を支払って朝早くから大月に足を運んでくれる人、自然の広大さに感動する人、大月の素晴らしさを直接伝えてくれる人、こうした人たちと接するなかで、「そうか、私たちはものすごく良い場所に住んでいるんだな…!」と、目からうろこが落ちたと言います。

そのような経験のなか、「当たり前」に感じていたいつもの大月の景色は、ここでしか得られない特別な存在であるという誇りに変わっていきました。

大月の見え方が変わったら、自分たちが変わった。自分たちが変わったら、取り組みに変化が生まれた

観光客のなかには、一生に一度だと思って富士山を見に来たという人や、外国人も多くいるそうです。しかし、天気が悪いと富士山は見られず、ガッカリして観光案内所を訪れることもしばしば。そんな時、井上さんと坂本さんは、自分たちの目で見て体験しているからこそ自信をもって紹介できる、富士山だけではない、大月でしか体験できない観光情報を観光客に提案してきました。
桜の木々と建物 紅葉の木々と白い橋
「帰り際に、わざわざ観光案内所に立ち寄ってお礼をいただくこともあるんです。『あなたに教えていただいたおかげで、富士山は見られなかったけど、ガイドブックにも載っていない、こんな素晴らしい景色に出合えました。本当にありがとう』って。大月の魅力を外の人に知っていただけた、何にも替えがたいうれしい瞬間です!」と、坂本さん。

こうした経験を通じて、2人は大月への愛着が増していったといいます。物事の見方が変われば、見える景色も変わってくる。大月の様々な魅力に気付いてからは、彼女たちの打ち出す企画にも様々な変化が生まれています。

例えば、観光協会が企画したトレッキングツアーは、なんとリリース翌日には即定員に! 今後は、登山して解散ではなく、大月の地域食材を使った食事の提供など、地域全体の魅力にふれてもらう仕掛けを盛り込んだツアーも開発していく予定だということです。
大月市観光案内所の様子

目指すのは、地域の人が自慢したくなるような誇れる地域づくり

井上さんと坂本さんは、地域の内と外の視点をもち合わせることができるポジションだからこそいち早く気付いた大月「ならでは」の魅力を、これからもっと発信していきたいと考えています。そして、地域の人が自慢したくなるような地域にしたい、と。

「そこで暮らす人たちが自慢できるような地域になると、その思いが枝葉に別れて、周囲にじわじわ伝染していくんだなということを、仕事を通じて感じました。なので、まずは大月の人たちに、暮らしているところの素晴らしさを知ってもらい、ここに住んでいることを自慢に思ってもらえるように発信をしていきたいです」と、井上さん。坂本さんも「大月の魅力を、将来を担う子どもたちにも伝えていきたいですね」と、思いを語ります。

東京都心からそこまで離れていない位置にありながら、まちの至る所から大きな富士山が見える景観、山が近いからこその四季折々の山の表情、夜空を見上げたときの星の美しさ。そうした魅力は、当たり前のものではない、そんな2人の気付きが、これからの大月市を変えていくきっかけになるでしょう。
(吉田めぐみ)

【山梨県・大月市】通過する街からの脱却「滞在型街づくりプロジェクト」