クライマックスは壊れる一瞬、壊すためにつくることで町が一つに。北海道唯一の喧嘩あんどん 沼田町夜高あんどん祭り
2022-01-31 08:00:00
あんどん祭りの様子

北海道空知総合振興局管内の北西部に位置する沼田町では、毎年8月、北海道唯一の喧嘩あんどんとして知られる「夜高(ようたか)あんどん祭り」が開催されています。ほとんどの町民が関わるともいわれる夜高あんどん祭りは、町の観光の目玉であるとともに、祭りを通じて町民の心を一つにするという重要な役割を担っています。コロナ禍を受けて祭りは2年続けて中止になりましたが、祭りにかける地域の情熱は失われていません。企業版ふるさと納税を活用した祭りの継承プロジェクトに携わり、あんどんの製作も手がける沼田町産業創出課の高橋光一さんは、「祭りは町民の魂だから、続く限り続けていきたい」と熱を込めて語ります。あんどんのつくり手だからこそ分かる祭りの魅力と心意気に迫りました。

人口約3,000人の町に訪れる5万人以上の観光客。沼田町の観光を支える、夜高あんどん祭り

道内でゲンジボタルの成育に初めて成功し、「ほたるの里」として知られる沼田町は、北海道の三大あんどん祭りの一つである「夜高あんどん祭り」でもその名を知られています。夜高あんどん祭りは、開拓の祖「沼田喜三郎翁」の出身地である現在の富山県小矢部市より伝承しました。

昭和52年(1977)、沼田町から小矢部市を訪問した交流団が同市津沢地区でこの祭りを目撃しました。一行は、その美しさと勇壮さに感動して、誰もが「ぜひこの祭りを沼田に…」と思ったといいます。小矢部市の心遣いであんどんつくりの交流団が結成され、同年秋には二基ではありましたが美しいあんどんができあがったのです。その後、あんどんは数を増し、今では高さ7m、長さ12m、重さ5tと圧倒的な迫力を誇る大型あんどんがつくられるようになりました。この大型あんどん同士の「ぶつけあい」は、祭りのクライマックスとして、多くの観光客を魅了し続けています。
あんどん祭りの様子
夜高あんどん祭りには、ほぼ毎年5万人以上の観光客が訪れます。決して観光資源に恵まれているとはいえない沼田町にとって、祭りは貴重な観光資源です。また、夜高あんどん祭りは、五穀豊穣や商売繁盛、無病息災を願い、実りの秋を迎える神事としても、町民にとって欠かすことのできない営みです。

「壊すためにつくる」。つくる人にしか分からない喪失感にも似た高揚感が祭りの魅力

「全国にあんどんを使った祭りは色々ありますが、沼田町のようにあんどんをぶつけあう祭りは珍しいです」と高橋さんは語ります。「ぶつけあい(喧嘩)で重要なのは、勝ったか負けたかということではなく、山車の前に括りつけた”吊物(つりもの)”とよばれるあんどんをいかにきれいに壊せるか。吊物がきれいに壊れたら、『いい喧嘩だったね』と称え合う、それが祭りの醍醐味。破壊と再生の美学があるんです」と続けます。

大型あんどんの製作は、商工会、農協、町役場、自衛隊といった職域ごとで行われ、それぞれ商工会あんどん連、農協あんどん連、役場あんどん連、自衛隊あんどん連として祭りに参加します。また、認定こども園、小学校、中学校の中型あんどんも保護者、教員、そして園児・児童・生徒が力を合わせて製作して参加します。高橋さんは、役場あんどん連の大型あんどんに施す絵を描いています。「平面に描くのと違って、あんどんに絵を描くときは立体に対して一発で描き上げなきゃいけないので、とても難しい。若い人に引き継いでいきたいのですが、難しいので敬遠されてしまいます。お盆休み返上して絵を描いていることもありますね」と、高橋さんは苦労を滲ませます。
あんどん作成中の様子
このように、苦労してつくられるあんどんの吊物ですが、クライマックスの大型あんどん同士の「ぶつけあい」で一瞬にして壊れます。高橋さんは「吊物をぶつけあいで壊す時には喪失感にも似た高揚感を感じますが、壊すためのものを町民が一丸となってつくるというところに祭りの奥深さがあるように思います」と、つくり手ならではのやりがいを強調します。

一瞬で壊れるあんどん、その一瞬のために町の人が一つに

あんどん製作に携わるのは、職域の関係者だけではありません。子どもから大人まで、町に暮らすほとんど全ての人が夜高あんどん祭りに関わります。町外に暮らす沼田町出身者も、お盆や正月ではなく、あんどんの日程に合わせて帰省するのが一般的というくらい、お祭りは町民のアイデンティティとして深く根付いています。

あんどんの製作は、5月下旬から祭りが開催される直前まで、約100日間に渡って行われます。役場あんどん連の場合、作業は仕事が終わってから始まるため、作業終了が21時を回るのは当たり前。時にはお酒も交えながら午前様になることもあるそうです。高橋さんの同僚である沼田町産業創出課の大原利啓さんは、「あんどんをつくること自体が楽しいんですよね。皆で夜遅くまでお酒を飲みながら、ああしようか、こうしようか、と議論しながらあんどんを完成させていく。その過程で、町の人が一体になっていくところに祭りのおもしろさの本質、町の魅力があるんだと思います。壊すためにつくるからこそ、プロセスを大事にするのが、夜高あんどん祭りの心意気です」と語ります。
あんどん土台に縄を結ぶ様子
あんどんつくりを通して、町には、職域や世代を超えたつながりが生まれます。このつながりが沼田町の日々の暮らしや仕事のなかに生きているのです。

コロナ禍で2年連続中止。それでも続けていくのは、夜高あんどん祭りが町の魂だから

町にとって、なくてはならない夜高あんどん祭りですが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、ここ2年は開催を中止しています。今年はいつも通りの形で開催できるのか、一度離れた観光客が戻ってくるのか、心配は尽きません。人口や祭りの担い手が減り続けていくなかで、一度中止になった祭りを復活させ、続けていくには相当の労力が必要です。高橋さんは、それでも祭りを続けていく理由について「祭りは町民の魂だから、続く限り続けていきたい」と力を込めます。「祭りを今後も続けていくためには、製作段階からのプロセスも含めた祭りの魅力を町外にPRし、若いファンを新たに獲得する必要があります。将来的には『あんどんのために町に移住してきました』なんていう人が出てくればうれしいですね」と高橋さんは続けます。
笑顔で祭りを楽しむ女性たち
ふるさとコネクトを通じて集まった企業版ふるさと納税の寄付金は、町民の魂である夜高あんどん祭りを守っていくために使われます。単にその日だけ祭りを楽しむだけでなく、寄付を通じて町やそこに生きる人々との関わりをもっていく、ふるさとコネクトを通じた企業版ふるさと納税だからこそできる町との関わり方があります。

これまでにない新しい沼田町との関わり方、体験してみませんか。
(イーストタイムズ 畠山智行)

【北海道・沼田町】夜高あんどん継承事業