名実ともに有機農業日本一を目指す! 有機農業でSDGs推進プロジェクト~熊本県山都町~
2022-01-24 08:00:00
畑の中央で肩を組んで集合している様子

熊本県山都町は、JAS認証登録事業者数が日本中の自治体のなかでも一番多い、有機栽培(農業)や減農薬栽培などの、人や環境に配慮した農業を積極的に進めてきた町です。

生産者達が手塩にかけてつくる、町の誇りともいうべき有機米や有機野菜は、今後ますます需要が広がると考えられることから、これを充実させて、“山都町産有機農産物”を全国的なブランドとすべく、「有機農業でSDGs推進プロジェクト」を2017年からスタートさせました。地場産品のブランド化と販路拡大を目指し、2022年1月には東京都の銀座熊本館で「山都町フェア」を開催するなど、町は継続してPRを行っています。

このプロジェクトについては、すでにふるさとコネクトでも紹介してきたところですが、開始から少し時間が経ったこともあり、今回はプロジェクトの現状と課題について、山都町の担当者にお話を伺うことにしました。

おいしい野菜をつくりたい、生産者の想いが開いた有機農業のとびら

じゃがいも収穫の様子
九州のちょうど中ほどにあることから「九州のへそ」といわれる熊本県山都町は、土地のほとんどが阿蘇の外輪山から九州脊梁山地にかかり、最も高い場所の標高は約1,700m。総面積の72%を山林が占める山間地の町です。

「山都町は有機農業をはじめとする、人と環境にやさしい農業が盛んで、有機JAS認証登録事業者数52(2020年度時点)は、全自治体のなかでも日本一です」と話すのは、山都町企画政策課主査の浜田美由紀さんです。

「この地域では1970年代から有機農業運動が興り、その発祥地として全国的に評価されています。原野の野草を活かし、牛馬の堆厩肥を使った土づくりに取り組むなど、古くから組織的に有機農業が営まれてきました」。

自然の恵みをいただいた作物で、ブランド化を目指す

通潤橋の放水
「町には豪快な放水で知られる通潤橋があります。町内の白糸台地にある棚田に、阿蘇山麓の湧き水を農業用水として運ぶため、安政元年(1854)につくられた国指定重要文化財です。今も現役で、おいしいと評判の山都町産のお米は、ここを通る用水で育てられています」と話す浜田さんは、ほかにもトマト、ピーマン、シイタケ、ユズ、イチゴ、栗をはじめとする多様な農産物が、清らかな水や冷涼な気候を活かし、環境にやさしい栽培法でつくられていることも教えてくれました。

「町の誇りといえる、山都町産の有機野菜をはじめとする環境にやさしい農産物をブランド化して、販路拡大を図り、農家の後継者育成も目指す取り組みを、『有機農業でSDGs推進プロジェクト』として進めています」。
企業版ふるさと納税の寄付対象であるこのプロジェクトは、その後、EC(電子商取引)サイトの開設や町内産有機農産物を使う学校給食の提供など、着実に進展しています。

一方で、プロジェクトを進めるうちにはいくつかの課題も見つかっています。

生産量が足りない、後継者が少ない

トマト栽培ハウスの中を歩く男性
「販路拡大を進めてきましたが、天候不良の影響もあって、今の有機野菜の量では購入者の希望に応えられないことがわかりました。もっと有機農業の生産者を増やして安定供給を実現しなければ、販路拡大は厳しいと考えています」。

「毎年、有機農業に関心をもって当町に移住される若者がいらっしゃいます。町ではこのような方々を対象に、農家で研修を受けながら、住まい探しなど様々なサポートが受けられる農業研修を行っていますが、農家の高齢化により離農者の方が上回ってしまう現状があります」と、浜田さんは生産者についての悩みを話してくれました。

住民への聞き取り調査から、山都町の有機農業の素晴らしさが町民に充分には伝わらず、それが農業を志す若者の減少に結びついていたこともわかりました。「有機農業の価値をきちんと伝えるため、子ども向けの体験農業を始めています。さらに、子どもたちに有機農産物の魅力を感じてもらう有効な手段は食育だと考え、町内産の有機米や有機野菜を使った郷土色豊かな給食を提供しています」。

有機農産物を通じて、町のファンを増やしていきたい

収穫した新鮮な野菜たち
「町の子どもに向けた体験農業では費用面も問題です。山都町は熊本県で3番目に広い自治体で、移動にはバスを使うため費用がかかるのです。体験農業を続けるためにも、寄付金をこの財源に活用したいと考えています」。

今後は、町の特産物を使った郷土食の活用にも力を入れたいと浜田さんは教えてくれました。「巻き柿という伝統食があります。干し柿を幾重にも巻いてつくるので切り口がバラの花びらのようになる、正月の縁起物です。おいしい郷土食ですが、つくれる方々が高齢のため、製法をどう残していくかが課題です。録画だけではわからない微妙な部分をどう伝えるのか…。その方法や技術面でもご支援いただければ、きっと価値の高い取り組みになると考えています」。郷土食の活用としては、町にはなかった加工工場をつくることで第6次産業を興し、商品化、販売までを町内で循環させる計画も視野に入れているようです。

最後に、有機農業でSDGs推進プロジェクトが目指す場所を聞きました。「まずは、たくさんの方に山都町産の有機農産物を購入していただきたいです。そしておいしい有機農産物をきっかけに、産地の山都町そのものにも興味をもっていただけたらうれしいですし、さらに町にお越しになって農業を体験したり、郷土食を召し上がるなかで、より深く町に関わりたくなるような、そんなプロジェクトを企業様の力をお借りして展開していきたいと考えています」。

有機農業の生産者が日本で一番多い山都町では、「有機米・有機野菜といえば山都町」と全国に認知されるまちを目指して、実直に取り組みを進めています。ただ財政難や簡単には解決できない後継者問題、技術の継承問題など、抱える課題も多く、環境にやさしい農業に理解の深い企業の協力を必要としています。
(オフィス・プレチーゾ 桜岡宏太郎)

【熊本県・山都町】有機JAS認証定登録事業者数日本一!安心・安全農業推進プロジェクト