【あのプロジェクトの今に迫る】地元金融機関と連携した奨学ローンで次代を担う人材を育成~群馬県下仁田町~
2022-01-12 08:00:00
山々に囲まれた街並の景色

ネギとコンニャクの産地として名高い群馬県下仁田町。平成29年度(2017)から地元金融機関と提携した奨学金プログラムを実施しており、その取り組みは令和元年度「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)に係る大臣表彰」を受賞しました。人口7000人ほどの小さな自治体の当時の取り組みの様子や、プロジェクトの「いま」をお聞きするため、下仁田町を訪ねました。

子どもたちが安心して町に戻ってくるために。「ねぎとこんにゃく下仁田奨学金」に込められた思い

下仁田町企画課の神戸(かんべ)さん(=右)と永井さん(=左)
今回お話をお聞きしたのは、下仁田町企画課の神戸(かんべ)さん(=右)と永井さん(=左)。まずは、事業の内容についてお話しいただきました。

「この奨学金制度は、提携金融機関から奨学ローンを借り、返済した場合に町の奨学基金から補助する制度です。在学中は利息相当額を、学校卒業後に下仁田町に戻って居住した場合は、居住している間の元金と利息相当額を補助します」と神戸さん。「ほかの自治体も様々な奨学金補助の取り組みを進めていますが、この事業の特徴は金融機関とローン契約を結んでいただくこと。卒業後10年間で元本(元金と利息相当額)を返済することになりますが、10年間下仁田町に住めば、ローン返済額全額を町が負担することになります」。

「ねぎとこんにゃく下仁田奨学金」という名前は、「一見、おかしな名前と思う方もいらっしゃるようですが、群馬県民なら誰もが知る『上毛かるた』から借りた名前です」と永井さん。かるたに謳われる「ねぎとこんにゃく下仁田名産」というフレーズは、地元の人たちにとっても故郷を表す特別な言葉だといいます。

若者が帰ってこない町からの脱却を目指して。強い思いで事業をスタート

神戸(かんべ)さん(=右)と永井さん(=左)
5年前に始まったこの取り組みですが、「最初はいろいろなハードルがありました」と、神戸さんは当時を振り返ります。「そもそものきっかけは、高校を卒業して転出した若者が町に帰ってこないことにありました。人口も減少を続けており、これをどうにかしないといけないと」。

そんなときに出合ったのが、鹿児島県長島町が行っていた「ぶり奨学金制度」でした。「この制度を参考に地元金融機関と協定を結び事業を組み立てました。ひとりの制度利用者に対し、最長で20年近く関わる事業なだけに、途中でやめるわけにはいきません。始めるにあたっては関わる全員が相当の覚悟をもって取り組みました」と話します。

基金の財源には企業版ふるさと納税などの寄付金を充てており、町の負担はわずかといいます。「利用者には喜んでいただいていますし、銀行も利息分を利益として得ることができます。誰も金銭的な負担を強いられることがないのがこの事業の特徴です」。

取り組みが認められ大臣表彰を受賞。思わぬ逆風にも覚悟をもって事業を進める

こうして事業はスタートしましたが、着実に運用するためには安定した財源が必要です。まだ制度が始まって間もない企業版ふるさと納税を活用するにあたり、「町に関係するあらゆる企業に連絡し寄付を依頼しました」と神戸さんは話します。その甲斐もあり、事業に賛同した多くの企業から寄付をいただくことができ、以降、毎年継続して寄付してくれる企業も多く、なかには「地方創生応援税制等に関する協定書」を締結し、取り組みの実績に応じ、継続した寄付などの支援をしてくれる企業もあるといいます。こうした取り組みが評価され、令和元年度の大臣表彰を受賞。受賞したことで事業の認知度も上がり、その後の寄付集めにも役立っているといいます。
永井さん
制度の利用者は120名を超え、去年の春には卒業した若者が町に帰ってきてくれました。順調にも見える事業ですが、長引く新型コロナウイルス感染症拡大の影響は学生生活を直撃しており、利用者が退学や休学するケースも。「いろいろなケースに対応できるよう制度の見直しを行っているところです」と永井さん。

町の存続をかけた取り組み。10年後、20年後を見据えたまちづくりのきっかけにしたい

下仁田町の人口は、7000人を少し下回っている程度。「利用希望者自体がそれほど多くない規模の町だからこそ実現できた」としながらも、「いま全国的に求められている内容の事業。失敗は許されません」と神戸さん。ほかの自治体にもぜひ取り組んでほしいと考えているそうです。「過疎化が進む町の存続をかけて、気概をもって取り組んでいます。帰ってきた若者たちがつくる10年後、20年後の下仁田町の姿を考えるとワクワクします」と、神戸さんが描く町の未来は明るく輝いているようです。
神戸(かんべ)さん(=右)と永井さん(=左)
「若者が帰ってくる体制づくりの後は、就業や子育て支援など、住みやすいまちづくりを進める必要があります。この事業はそのベースとなるもの。毎年多くのご寄付をいただいていますが、基金は盤石ではありません。町の未来のために、多くのご支援をお待ちしています」。

【群馬県・下仁田町】地元金融機関と連携した奨学ローンで次代を担う人材を育成

奇観の妙義山や世界遺産の風穴も。下仁田町はネギとコンニャクだけじゃありません!

広大な下仁田ネギ畑と山並み
冬は「下仁田ネギ」の最盛期。町のあちらこちらにネギ畑が見られ、道の駅や直売所では大きなネギの束が売られています。近年は生産量が減ったというコンニャクは、今でも立派な特産品です。ネギとコンニャクだけがクローズアップされることが多い下仁田町ですが、魅力はそれだけではありません。
冷たい風が吹き出す「荒船風穴」
世界遺産に登録された「荒船風穴」。-1~5℃くらいの冷たい風が吹き出す風穴で、孵化するタイミングをコントロールするために蚕の卵を保存した場所です。養蚕の発展に欠かせない場所であり、「富岡製糸場と絹産業遺産群」の構成資産として世界文化遺産に登録されました。(12~3月は閉鎖のため見学できません)。
妙義山の山々と街並みの景色
「下仁田町ほたる山公園」の駐車場から見た妙義山。下仁田町ほたる山公園にはバーベキュー・キャンプサイト(月曜休※祝日の場合は翌日休、冬期の平日は閉鎖)があります。
白い乗用車と下仁田駅
下仁田駅へは、高崎駅から上信電鉄で約1時間。駅の周りは昭和レトロな雰囲気が漂っています。食材が豊富な町で、大正時代から伝わるボリュームたっぷりの「下仁田かつ丼」が町の名物です。