お墓×フルーツ狩り!? 日常に埋もれた古墳群を新たな視点で活用~福岡県うきは市~
2021-12-22 08:00:00
うきは大古墳展集合写真

福岡県に「古墳女子」たちから注目を集めている古墳群があります。それはうきは市の「屋形古墳群(やかたこふんぐん)」です。かつてこの地域には数多くの古墳があったといわれていますが、その多くは開発にさらされ、残った古墳の一部は果樹園地帯の中に埋もれています。保存や見学のための整備もこれまで思うように進んでこなかったため、多くの人に知られる存在ではありませんでした。

しかし今、人の営みの中に埋もれてきたこと自体を独自の魅力として捉え、活用する取り組みが進んでいます。「お墓×フルーツ狩り」といった斬新なツアーも予定され、市は保存活用のための整備を進めることで、新たなファン獲得に弾みをつけようとしています。

ポテンシャルがあっても人を集められないジレンマ

うきは市にかつてあったという数多くの古墳。しかしその土地の多くは開発され、人々のなりわいの中で多数の古墳がなくなっていきました。

珍敷塚古墳(めずらしづかこふん)、鳥船塚古墳(とりふねづかこふん)、古畑古墳(ふるはたこふん)、原古墳(はるこふん)の4基の装飾古墳からなる「屋形古墳群」も、2基は墳丘が無い状態ですが、それぞれの古墳には昔の人が描いた”絵”がしっかりと残されています。

珍敷塚古墳の壁画は、ゴンドラ形の船や、盾か弓を持つ人物、ヒキガエルなどが描かれ、アニメ映画『風の谷のナウシカ』のオープニングや、古代エジプトの「太陽の船」を連想させます。その絵はうきは市文化会館の緞帳(どんちょう)にも採用されるなど、市民にとってもなじみ深い存在です。

これらの古墳は貴重な歴史遺産ではありますが、1970年代に整備した保存施設は老朽化が進み、唯一見学ができる珍敷塚古墳も劣化を防ぐために月に1度の予約公開となっています。また各古墳の立て看板も古くなってきており、駐車場も不足してアクセス環境も整っていませんでした。
昔の人が書いた”絵”

日常に埋もれてきた古墳だからこそ、むしろおもしろい!

古墳群は地元の人たちの日常生活に溶け込んでいます。それゆえに宅地や果樹園の開発にさらされ、文化財保護の観点では難しさを抱えてきました。保存施設の整備も充分には進まなかったことから、観光コンテンツとしても認知されてこなかった背景があります。しかし、市は今、新たな視点で古墳群の魅力を捉えなおそうとしています。

「現代の営みの中に今も古墳が残っているというのが、屋形古墳群のおもしろさだと思います」。うきは市で文化財保護を行う担当者は、屋形古墳群の魅力をそう語ります。1000年以上前の時代を生きた先人たちの弔いの形を伝える遺跡と、現代の人たちのなりわいとが同居する景観は、時代ごとの人の営みが折り重なってできた独特なものです。

こうした屋形古墳群の特徴を生かした新たなツアーも予定されています。それは、古墳巡りとフルーツ狩りを同時に楽しんでもらおうというもの。うきは市は果樹栽培が盛んで、屋形古墳群の周辺にも果樹園が広がっています。日常風景の中に古墳があるからこそ生まれた斬新な企画で、それまで古墳の見学には足を運ばなかったような若い人たちが参加することが期待されます。これまでもサイクリングツアーや「古墳カード」の発行など、様々な企画を実施。視点を変えたことで古墳群を楽しむ新たな切り口が生まれています。
珍敷塚古墳と見学者

10年がかりの整備に着手。古墳を守り、もっと活かすために

じわじわと注目を浴びつつある屋形古墳群を活用しようと、市は現在、10年以上かけて保存施設の整備を行う計画を進めています。ふるさと納税による寄付金を墳丘の補修などに充てて、今よりも多くの人の目にふれられるようにしたい考えです。

現在、市はガイダンス広場や古墳群をつなぐ散策路を整備中。今後は珍敷塚古墳を保護する覆屋や、施設改修を行い、保存状態を良くすることで、より多くの人が古墳群に関われるようにしていきたいとのことです。

古墳群を巡るツアーに参加した若い女性は、デザイン的観点から壁画の絵に注目し、その後独自で学びを深めるきっかけになったといいます。様々な人がここを訪れ、それぞれの視点で古墳やそこにある人の営みにふれることで、これまでになかった切り口でうきは市の魅力が発信されていくかもしれません。
青空と古墳、手を振る人物たち