【あのプロジェクトの今に迫る!】十勝岳噴火からの復興を描く『泥流地帯』映画化プロジェクト~北海道上富良野町~
2021-12-20 08:00:00
十勝連峰の山々。中央が泥流被害をもたらした十勝岳

『氷点』『塩狩峠』と並ぶ三浦綾子の代表作『泥流地帯』。大正時代末期、十勝岳の噴火による泥流被害の様子を描いたこの作品はいまだ映像化されておりません。このプロジェクトでは、物語の舞台となった上富良野町が今まで叶わなかった映画化に挑戦。三浦文学ファンや上富良野町民が待ちに待った映画化への取り組みを伺いに、上富良野町を訪ねました。
(写真=十勝連峰の山々。中央が泥流被害をもたらした十勝岳)

【北海道・上富良野町】十勝岳噴火からの復興を描く『泥流地帯』映画化プロジェクト

上富良野開拓の歴史がここに。「生きる」ことの本質に迫る感動巨編

上富良野町企画商工観光課の浦島さん
今回、話をお聞きしたのは、プロジェクトを推進する上富良野町企画商工観光課の浦島さん(=写真)。まずは『泥流地帯』についてお話しいただきました。

「この物語は、大正15年(1926)5月24日に発生した、十勝岳の火山活動に伴う大規模な泥流被害を題材にしています。その30年ほど前から始まった上富良野の開拓の歴史のなかで、苦難を乗り越えながら実直に生きる人々の姿が描かれています。泥流の場面や、そこから復興を果たすまでの歴史が生々しく描写されており、町の郷土史といってもいいほどの作品です」

『泥流地帯』は昭和51年(1976)に、『続 泥流地帯』は昭和53年(1978)に北海道新聞日曜版に連載されました。「執筆にあたり三浦夫妻は何度も上富良野を訪れ、被災者の生の声を聞くなど膨大な取材を行ったといいます。三浦夫妻がのちに『泣きながら書いた』と述懐していますが、いろいろと考えさせられる作品です。『正(泥流地帯)』と『続(続 泥流地帯)』でひとつの物語なので、ぜひ2冊まとめて読んでみてください」。

三浦文学代表作にふさわしい映画を。果たせなかった映画化がいよいよ目の前に

泥流被害直後の上富良村の様子
今回のプロジェクトが動き出したのが平成29年(2017)、連載開始から40年ほどたったころでした。それまでも何度も映像化の話はありましたが、実現には至らなかったといいます。「三浦文学の代表作のひとつということが大きなハードルだったようです。キャスティングも考えると多額の製作費がかかりますので。物語の核となる泥流の描写をするための映像技術がなかったというのも、映像化が困難だった大きな要因ですね」。
(写真=泥流被害直後の上富良村の様子。上富良野町郷土館提供)

今回の映画化プロジェクト発足は、「当時の町長が『泥流地帯』が映画される夢を見たのがきっかけ」と話す浦島さん。「なんとかできないものかと役場で検討を重ね、町に負担がかからない方法を模索しました。その結果、一般財源は使わないこと、町が直接映画製作を行うのではなく製作の支援をするという方向で進めることが決まりました」。

プロジェクトが始まると、町内の学校に『泥流地帯』『続 泥流地帯』を配って読書感想文の課題にしたり、一般向けの作文コンクールを開催したりと、原作を知ってもらうための取り組みを進めたといいます。旭川市にある三浦綾子記念文学館も全面協力してくれることになり、映画化への動きは着々と進んでいます。

2022年の製作発表を目指して。公開が待たれるプロジェクトのいま

「プロジェクト発足当時から、三浦綾子生誕100年の年になる2022年の公開に向けて進めてきました。コロナ禍の影響などもあって、実際は予定よりも遅れています。2022年に製作発表、2023年公開というのが現時点での最短のスケジュールになります」と、浦島さんは話します。

映画の製作会社である株式会社Zipangと連携協定を締結し、その取締役のひとりが上富良野に移住しました。町のあちこちに『泥流地帯』のポスターやのぼりが見られ、役場内では多くの職員がオリジナルパーカーを着ています。こうしたことからも、町全体が一丸となり、映画化に向けて盛り上がっているように見受けられます。

「自治体が直接映画を作った例はこれまでもたくさんありますが、いろいろな課題が残ったケースが多いようです。今回のプロジェクトでは、映画製作は商業映画として製作会社が行い、上富良野町は、町内で行うロケを支援し費用をすべて負担する方向で調整しています。企業版ふるさと納税などで集まった皆様からの寄付を財源としているので、町内で撮影が行われると、いただいた寄付が町内に循環することになります」。そうすることで町民の理解を得られ、映画化への機運が高まったといいます。

約100年後の物語の舞台を歩く。ロケツーリズムにも期待

『泥流地帯』は、三浦綾子さんの綿密な取材に基づいて描かれたこともあり、物語の舞台となった多くの場所は約100年たった今でもしっかりと残っています。浦島さんに案内していただき、町内に点在する『泥流地帯』ゆかりの地を訪ねてみました。
『泥流地帯』文学碑
『泥流地帯』文学碑
昭和59年(1984)に立てられた記念碑。泥流が発生した際の小説の一節が刻まれています。題字は三浦綾子さん本人が揮毫したもの。2つの岩は、泥流によって流されてきたものだそうです。
上富良野町開拓記念館
上富良野町開拓記念館
泥流発生当時の村長・吉田貞次郎氏の住宅を解体復元したもの。泥流の被害を受けながらも残存した貴重な建物で、館内には泥流についての解説や、吉田村長の遺品などが展示されています。ロケの際には、村長の家として使用されるかもしれません。
十勝岳爆発遭難記念碑
十勝岳爆発遭難記念碑
土台の岩は、十勝岳の火口付近から17kmに渡ってこのあたりまで流されてきたもの。重さは推定68トンもあるといい、泥流のすさまじさがよくわかります。
上富良野町郷土館
上富良野町郷土館
旧上富良野村役場庁舎をモデルに建てられた郷土館。開拓当時からの生活用具や、十勝岳の爆発から復興までの歴史資料をテーマ別に展示しています。当時の役場としてロケ地の候補になっています。

「主人公の家はあの辺りにありました。学校はこの奥のほうに」。
町内を車で走りながら、物語の舞台となった場所を次々と示してくれる浦島さん。原作を読んでから来ると、頭の中でイメージしていたものが、突然現実の場所として目の前に現れるような気分になります。上富良野を訪れる際は、2冊読破してからがおすすめです。

エンドロールに企業名が。CSR活動だけでなくPR効果も抜群

いよいよ盛り上がりを見せる上富良野町の映画化プロジェクト。寄付企業の名前は、映画本編のエンドロールに掲載されるといいます。「寄付していただいた企業はスポンサーと同じ扱いをさせていただくよう製作会社の了承も得ています。エンドロールだけでなく、イベントのチラシや映画ポスターなどにも掲載させていただくので、かなりのPR効果が見込まれます」と浦島さん。

ちょっと気が早いですが、映画の楽しみ方を聞いてみました。
「楽しみ方はいろいろあると思いますが、この映画に限っていえば先に原作を読んでから観るのがいいですね。また、壮大な物語のどの部分が映像化されるのか、それを予想するのも楽しいもの。私自身、どんな映画になるのか、毎日ワクワクしながら想像しています」と、いよいよ現実味を帯びてきた映画化への思いを話してくれました。