高校進学で村を出ていく子どもたちに地域に戻ってくるきっかけを。 沖縄県恩納村「中学生による特産品づくり」
2021-11-18 08:00:00
断崖と海

沖縄島の中央に位置する恩納村は、国内屈指のリゾート地として知られています。観光客や移住者が増える一方で、地球温暖化などの影響によるサンゴの海の環境破壊や、観光客の村内での消費の伸び悩みといった課題も。
これらの課題に挑むのは「恩納村立うんな中学校」の3年生たち。恩納村の海や山の豊かな地域資源を、地域の事業者とともに特産品として商品化するプロジェクトを通じ、持続可能な観光産業や地域社会の実現、サンゴの海の環境保全を目指します。地域の人々の心を動かし、子どもたちが地元に戻るきっかけとなるプロジェクトの魅力に迫ります。

ほとんどの地区が海に面する恩納村。サンゴの海は暮らしや産業を守る生命線

沖縄を代表するリゾート地として知られる恩納村。透き通った青い海や白い砂浜、豊かな自然はこれまで多くの人を魅了し、2018年には年間280万人もの観光客が恩納村を訪れています。

恩納村はほとんどの地区が海に面しており、村の基幹産業である観光業や村の暮らしは、美しい海があって初めて成り立ちます。海の美しさを支えるのは、224種にも渡る多様なサンゴが織りなすサンゴ礁。産業や村の暮らしを守っていくためには、恩納村のサンゴの海を次世代に残していかなくてはなりません。

恩納村では、地球温暖化やオーバーツーリズムの影響によるサンゴの海の環境破壊を防ぐため、2018年に「サンゴの村宣言」を発表しました。世界一サンゴにやさしい村を目指し、村が一体となって様々なアクションがなされています。

中学生が、地域ならではの資源を特産品化し、地域に暮らす人々の環境保全の意識を高める

その中でも、地域から大きな注目を集めているのが、村内唯一の中学校「恩納村立うんな中学校」の3年生による、地域資源を特産品化するプロジェクト「PROJECT1 UNNA魂」です。

恩納村の観光業の課題のひとつは、特産品やおみやげが少ないために、観光客が宿泊費以外に村内で消費する額が少ないこと。持続可能な観光業を実現するためには、観光消費額を増やしつつ観光業における環境負荷を減らし、地域に暮らす人々の意識や生活様式も変えていかなくてはなりません。うんな中学校の生徒たちは、地元の農家や漁師、専門知識をもつ事業者らと協働し、これらの課題に対して中学生ならではの柔軟な発想をいかして取り組んでいます。
授業風景
「PROJECT1 UNNA魂」は、2021年からスタート。3年生がクラス単位で、拠点産地認定作物を使用した商品や海のサンゴ保全を目的とした商品開発を実施し、地元の活性化や新しい恩納村の魅力づくりに貢献しています。初年度の3年生が挑むのは、「パッションフルーツビネガー」、「アテモヤのデザート」、「サンゴの村でつくった海に優しい日焼け止めクリーム」の3品です。

生徒たちは、地元事業者をはじめ県内外の事業者らの協力を得ながら、開発のプロセス全てに携わります。原材料についての学びから、コンセプトづくり、味や使い心地を決定づける成分の配合、ネーミング、パッケージデザイン、プレゼンテーションまで、全てを自分たちの手で担い、商品化までこぎつけます。

高校生になると村を出ていく子どもたちに、地域に戻ってくるきっかけを

「最初は物おじしながら事業者の話を聞いている子どもたちが、授業を進めていくうちに大人と対等に話し合いができるようになってきている。子どもたちに自信がついてきているのがわかります」と語るのは、村役場の担当としてプロジェクトを推進する学校教育課の名城政太さん。

プロジェクトは単に地域の特産品を開発し、サンゴの海を守るだけに留まりません。生徒たちのキャリア教育や自己肯定感の醸成に加え、世代や業種などの枠組みで地域協働が進むことにも大きな効果があると言います。何より、一連の取り組みを通じて、子どもたちの郷土愛が育まれることに大きな価値があるそうです。
人物
恩納村には高校がないため、中学生たちは、卒業したら村外の高校に進学するケースがほとんどです。中学生のうちに、地元の課題を地域の人たちと一緒になって考える経験を積むことで、一度村を離れても、また村に戻ってくるきっかけになります。

「このプロジェクトを10年続ければ、将来は今の中学生が、10年後恩納村に講師として戻ってきて中学生を教えるようになります。10年続けていくためには、村の中はもちろん、村の外の人にも関わってもらえる仕組みを作る必要があります」と、名城さんは意欲を見せます。

子どもたちの視点が、地域の魅力と外の消費者をつなぐ橋になる

まだ始まったばかりの「PROJECT1 UNNA魂」ですが、村に新しい変化をもたらしています。例えば、これまで果物として出荷されてきたアテモヤですが、出荷できない規格外のものを使用することで、生産者の所得向上のほかフードロス削減の取り組みにもつながっています。

地元の生産者や事業者からは、「こんな使い方もあったのか」と、早速驚きの声が上がっており、中学生の斬新なアイデアや、プロジェクトに真剣に取り組む姿勢が、地域の人々の意識を変え始めています。中学生の視点で地域の魅力を見つめ直し、その視点で村の価値を高めていく取り組みによって、地元の企業や地域の多様な人々、そして外の消費者がつながり始めているのです。
対話
本プロジェクトは、企業版ふるさと納税サイト「ふるさとコネクト」からの寄付を通じて、恩納村外の企業が参画することもできます。企業版ふるさと納税を担当する恩納村企画課の當山香織さんは、「寄付をいただいた企業の皆さまには、ぜひ恩納村の中学生たちと関わってもらいたいですし、中学生も村外の企業と関りをもつことで、たくさんの気付きを得て欲しいですね」と、地域外の企業が関わることによる本プロジェクトの発展に期待を込めます。

外部の企業の関わりにより、また新たな展開が拡がりそうです。中学生が自らの手で、地元の観光業や、地域の人々の意識を変え、サンゴの海を守るプロジェクトから、今後も目が離せません。

【沖縄県・恩納村】中学生が主役!沖縄のサンゴの海を守りたい