美しい自然を守りたい! 美ら海・美ら山を未来へ継承すべく奮闘する、沖縄県本部町の思い
2022-06-22 08:00:00
沖縄の海の様子

沖縄の人気スポットのひとつ「沖縄美ら海水族館」があることでも知られる沖縄県本部町は、“美ら”の名にふさわしい、誰もが心洗われる、絶景の海と山をもっています。

この美しい自然が、海洋ゴミや赤土など様々な要因によって失われ、変貌する事態から守るべく町が立ち上げたのが、「美ら海・美ら山」保全プロジェクトです。

まちを象徴する海と山をキーワードに環境保全に取り組む本部町で、企業版ふるさと納税の担当部署である総務課のお二方、主任主事の伊禮 慧(いれい さとし)さんと主事の比嘉剣児さんにお話をお聞きしました。まちの未来を考え選択した道が、大切な自然を守る活動であったことがわかる、思いのこもったものになりました。

沖縄が誇る美ら海を守りたい

主任主事の伊禮 慧さんと主事の比嘉剣児さん
「本部町はじめ沖縄県全体が抱えている問題として、赤土による海の汚染や、環境の悪化が挙げられます。赤土の流出で海の環境が変わり、生態系に悪影響が出ることが心配です」と、比嘉さん(=写真左)が語り始めました。赤土汚染は、沖縄島を含む南西諸島に多く見られる赤茶色の土や灰色の土が、大雨などで河川から海に流出し、拡散することで起こります。一度は海底に沈下した赤土が、大雨や波浪によって再び海を汚すこともあるといいます。

さらに環境の悪化に関しては、ほかにも問題があると比嘉さんは指摘します。「町内にはいくつか海岸がありますが、それらの浜には、プラスチック製品などのゴミが漂着するのです。これが紫外線を浴びたり、波や岩、砂などにぶつかり劣化し、小さくなったりして、いわゆるマイクロプラスチックと呼ばれるものになります。それをプランクトンが食べ、さらに魚が食べることで食物連鎖に組み込まれてしまい、人間を含めた自然界に、身体への悪影響があるとされるプラスチックがずっと残り続けることになるのです」。

マイクロプラスチック問題は、海に囲まれた沖縄県においてはより身近で、喫緊の課題として捉えられていることは必然といえます。「海岸で見つかるゴミには、日本語が書かれたゴミのほかにも、韓国語や中国語などが書かれたものも多く見られます。日本語表記のゴミは、県民や、沖縄に遊びに来られた方がビーチで捨てたものだと思われますが、韓国語や中国語などの表記のものは、海に捨てたゴミが流され、沖縄県の海岸に漂着したものだと考えられます」と伊禮さん(=写真右)が説明してくれました。

さらに伊禮さんは続けます。「日々、海岸ではボランティアを中心に、町民の方たちがゴミを拾ってくれています。3カ所の海岸については、町内にある障がい者の方が通所する施設に清掃を委託して、空き缶などの漂着したゴミ、あるいは観光客の方が残したゴミなどの回収をお願いしていますが、実際には拾っても拾っても、またすぐ流れてきたり、捨てられたりしています。捨てる人は、おそらく何気なく捨てているのでしょう。悪気がないから捨て続ける。表現は悪いかも知れませんが、イタチごっこみたいなものです」。
before―赤土やゴミが漂着する前の新里(しんざと)漁港海岸
(写真)before―赤土やゴミが漂着する前の新里(しんざと)漁港海岸
after―汚れてしまった新里漁港海岸
(写真)after―汚れてしまった新里漁港海岸

美ら山の桜を守りたい

「海の話をしましたが、山の保全でも問題があります。例年1月から2月にかけて咲く寒緋桜(カンヒザクラ)が老木化しているのです。倒れてしまう木も出てきたため、桜の保守管理も、『美ら海・美ら山』保全プロジェクトの主要な取り組みとしています」と話す比嘉さん。寒緋桜とは、沖縄を代表する山である八重岳一帯に、約7,000本植生する桜のこと。日本で最初に開花する桜として、毎年ニュースにも取り上げられます。上野恩賜公園の桜が約800本ということからも、満開の時季、一帯を濃いピンク色に染め上げる約7,000本の桜の華やかさが格別であろうことが想像できます。

「寒緋桜の寿命は80年くらいと聞いています。現在、まちの寒緋桜は樹齢60年ほどですから、高齢になってきました。まずは、いまある桜を維持管理することと、いまの風景を後世に遺すというテーマのために、新しい苗木を植える補植を行っています。ずっと将来にわたって桜を観ることができる、持続可能な活動をしているのです」と寒緋桜のへの思いを話す伊禮さん。

それを受けて、比嘉さんが続けます。「ただ、管理作業は4名で行っているので、例えば景観を維持するための草刈りなど、桜の木の保守管理以外にも幅広くある作業をすべて行うのは難しいところがあります。企業版ふるさと納税で寄付金をいただけたら、桜の保全活動や草刈りに使う機材の買い替え、桜の肥料の購入などに使う方針です」。

人の心を惹きつける、八重岳の寒緋桜

八重岳の桜
ここで、コロナ禍の不自由な生活中に起きた、八重岳の桜(=写真上)の存在感を物語る印象的なお話を、伊禮さんに紹介していただきました。

「私たちは八重岳の寒緋桜を日本一早咲きの桜と謳っていますが、今年はコロナ禍においても約12万人の方が観に来られました。保全に力を入れてきたことが、功を奏しているのかなと喜んでいます。ところで、この桜を観に来られた方々の内訳は、飛行機に乗って観光に来られた方より、沖縄県民の方がずっと多い印象でした。八重岳は自動車でないと行きづらい場所ですが、レンタカーはほとんど見かけませんでした。皆さん、いわゆる(自家用車による移動を中心とした近距離旅行の)マイクロツーリズムを楽しまれていたようですね」。

「屋台が並ぶような桜祭りは、ここ2年ほど開催できていませんが、ドライブスルー方式といいますか、八重岳山頂に向かう約4kmの山道を自動車で登りながら、皆さん車内から花見を楽しまれていました」と、比嘉さんは当時の様子を振り返ります。

コロナ禍においてもなお、沖縄県民を惹きつけてやまない八重岳の桜。それは守りたくなる、守らなければならない貴重な存在です。

プロジェクトの背景にある思い

木を植える少女二人
お話は、「美ら海・美ら山」保全プロジェクトの背景にある、まちへの思いというものに及びました。

「本部町にある瀬底島には瀬底小学校があります。同校は、海洋教育パイオニアスクールプログラムの採択校に選ばれていて、琉球大学の研究施設の職員さんが、生徒たちに海の生物を紹介したり、生態系を守っていくためには何をすべきかなどの環境教育をしてくれたりしています。沖縄には、“青い海、青い空”というイメージがあると思いますが、その美しい自然をずっと守っていくための教育を行い、大切な自然を守ろうという雰囲気、空気というものが醸成され、思いが子どもにも引き継がれていくことが、まちの未来につながり、持続可能な開発目標の達成、SDGsの達成につながるのかなと思います」。環境教育こそが将来に向けたまちづくりの基礎になるものだと伊禮さんはいいます。同時に、子どもたちがそのことを理解し、引き継いでいくことに期待を寄せていました。

「僕たち大人だけではなく、後を引き継ぐ子どもたちも環境保全に頑張って取り組んでもらわなければ、自然はどんどん廃れていってしまいます。一度壊れた自然は、簡単には戻すことができませんから、自然を守り引き継いでいくという思いが、ずっとつながっていけばいいなと思っています」。

町は、いまもこれからも、環境保全プロジェクトに一所懸命です。

軽石の使い道は、現在模索中…

軽石回収の様子
(写真)軽石回収の様子

一時は連日報道されていた、海底火山噴火が起因とみられる大量の軽石による被害についての現状について、比嘉さんが話します。「一時は軽石による被害が大きかったのですが、いまは本部町周辺では大部分がなくなっています。おそらく流されて別のところに移動したと考えていますが、すでに打ち上がったものに関しては、回収できたものとできていないものがあります。軽石には大きいものから小さいものまであって、ボランティアの方は重機も使って回収していますが、小さい軽石に関してはなかなか取りきれず、白い砂浜が変色しています。そこに不法投棄が疑われるゴミと、海から流れて来る漂着ゴミが混ざり合って、かなり景観が悪化しているところがあります」。

さらに回収した軽石にも、悩みがあるという比嘉さん。「私たちでは、集めた軽石の処分方法がわからないのです。もしかしたら今後使えるものかもしれないと考えて、まとめて保管している状態です。軽石の有効活用ができるのかどうか、軽石に関心がある企業さんからご連絡をいただければ、寄付は別として、一緒に何かできたらいいなと思っています」。

ペットボトル飲料を製造・販売する企業をはじめ、企業や社会の理解を促すため、プラスチックゴミやペット(ポリエチレンテレフタレート)ゴミによる生態系への影響、景観破壊をわかりやすく説明することにも取り組みたいという本部町。自然を守っていくことが、まちづくりの基本であるという、ぶれることのない思いに賛同されましたら、ぜひ町への寄付を検討してください。
(オフィス・プレチーゾ 桜岡宏太郎)

【沖縄県・本部町】「美ら海・美ら山」保全プロジェクト