人々の暮らしと産業を支える。清らかな天然水を未来へとつなげる「清流のまち うきはの水プロジェクト」
2022-05-23 08:00:00
福岡県の南東部に位置し大分県と隣接するうきは市は、大地から湧き出る地下水と、市の北を流れる筑後川から引く大石長野水道がもたらす豊かな水資源が自慢です。
市では現在、市民の生活用水を守る施策として地下水の保全活動を、農業など産業用水を守る施策として河岸工事や大石長野水道の改修工事を進めるとともに、豊かな水資源を産み出す環境の保全活動にも取り組んでいます。
「清流のまち うきはの水プロジェクト」と名付けられた取り組みは、地下水の調査から河岸工事、環境保全、治山事業など多岐にわたります。全国の水資源を守る活動の参考にもなるであろう、壮大な取り組みの現状や課題、今後の計画を知るべく、市の企業版ふるさと納税担当の、うきは市企画財政課企画調整係長の権藤尊光さんに、まずは市がこのプロジェクトを立ち上げた経緯からお話を伺っていきます。
市では現在、市民の生活用水を守る施策として地下水の保全活動を、農業など産業用水を守る施策として河岸工事や大石長野水道の改修工事を進めるとともに、豊かな水資源を産み出す環境の保全活動にも取り組んでいます。
「清流のまち うきはの水プロジェクト」と名付けられた取り組みは、地下水の調査から河岸工事、環境保全、治山事業など多岐にわたります。全国の水資源を守る活動の参考にもなるであろう、壮大な取り組みの現状や課題、今後の計画を知るべく、市の企業版ふるさと納税担当の、うきは市企画財政課企画調整係長の権藤尊光さんに、まずは市がこのプロジェクトを立ち上げた経緯からお話を伺っていきます。
地下水で暮らすまちの水資源を守るプロジェクト
「現在、うきは市には上水道がありません。全国の水道の普及率は98%とされるなか、上水道の配備がない市は、全国でも当市だけだと聞いています。住民が生活に使うのは、塩素処理を施さない良質な井戸水です。そのため、水質保全は暮らしを支えるための重要な課題なのです」。
「そこで市は、うきはの水プロジェクトを発足し、水資源を守る取り組みを始めました。なかでも重要なのは水質調査です。地下水の枯渇は、目には見えないうちに進むため、予め地下水の状況を知っておくことが必要です。また水質保全の面でも、ボーリングして水質調査を行う必要がありますので、そういったモニタリング調査と科学的な水質検査を、2021年度では各公共施設や希望のあった民間施設など150カ所以上で実施し、水質などを分析しております」。
この水質調査からは、重要な事実もわかったようです。
「以前は10mほど掘れば水が出ていたところでも、15~20mは掘る必要が出てきたところがあります。自然環境の変化によって、今まで利用できていた井戸が使えなくなり、ボーリングし直す必要がある箇所も出始めました」。
「地下水を枯渇させないためにも、今後は、企業版ふるさと納税によって寄付をいただき、各調査や分析、また河川の改修などに充てさせていただこうというのが、プロジェクトを始めた動機です」。
「そこで市は、うきはの水プロジェクトを発足し、水資源を守る取り組みを始めました。なかでも重要なのは水質調査です。地下水の枯渇は、目には見えないうちに進むため、予め地下水の状況を知っておくことが必要です。また水質保全の面でも、ボーリングして水質調査を行う必要がありますので、そういったモニタリング調査と科学的な水質検査を、2021年度では各公共施設や希望のあった民間施設など150カ所以上で実施し、水質などを分析しております」。
この水質調査からは、重要な事実もわかったようです。
「以前は10mほど掘れば水が出ていたところでも、15~20mは掘る必要が出てきたところがあります。自然環境の変化によって、今まで利用できていた井戸が使えなくなり、ボーリングし直す必要がある箇所も出始めました」。
「地下水を枯渇させないためにも、今後は、企業版ふるさと納税によって寄付をいただき、各調査や分析、また河川の改修などに充てさせていただこうというのが、プロジェクトを始めた動機です」。
「うきはテロワール」がまちの農業の未来をつくる
調査からは、農業における特性もわかってきたと権藤さんはいいます。
「科学的な分析や地形の分析を行った結果、当市の地下水の清らかさ安全性とともに、肥沃な大地というものも科学的に証明されました。農産物などの育成に適したことがわかったわけです」。
福岡県下有数の果物の産地でもあるうきは市は、この農業に適した環境を、フランスのワインづくりなどで使われるテロワール(※)という言葉にあやかって「うきはテロワール」と命名。農業のさらなる高付加価値化を目指しています。
「風や森林の分析など、テロワール事業の調査分析によって、うきはの土地は地形、気温、土壌、風、水、雨、地理という7大自然要素に恵まれているため、農業に適していることはもちろん、病虫害や地球温暖化によるリスクが少ない可能性が高いこともわかりました」。
「うきはテロワールは、こういった科学的な根拠に基づいて市の農業の優れた点をPRしていこうという施策で、ブランディングを目指してロゴマークもつくり、商標登録も取っております」。
寄付金による市の水資源に関する調査分析は、うきはテロワールにも生かされます。
※生育地の地理、土壌、地勢、気候など、農業を取り巻くあらゆる環境の特徴を指す、フランスで生まれた言葉であり概念です。「その土地ならではの味」を表現する際に使われます。
「科学的な分析や地形の分析を行った結果、当市の地下水の清らかさ安全性とともに、肥沃な大地というものも科学的に証明されました。農産物などの育成に適したことがわかったわけです」。
福岡県下有数の果物の産地でもあるうきは市は、この農業に適した環境を、フランスのワインづくりなどで使われるテロワール(※)という言葉にあやかって「うきはテロワール」と命名。農業のさらなる高付加価値化を目指しています。
「風や森林の分析など、テロワール事業の調査分析によって、うきはの土地は地形、気温、土壌、風、水、雨、地理という7大自然要素に恵まれているため、農業に適していることはもちろん、病虫害や地球温暖化によるリスクが少ない可能性が高いこともわかりました」。
「うきはテロワールは、こういった科学的な根拠に基づいて市の農業の優れた点をPRしていこうという施策で、ブランディングを目指してロゴマークもつくり、商標登録も取っております」。
寄付金による市の水資源に関する調査分析は、うきはテロワールにも生かされます。
※生育地の地理、土壌、地勢、気候など、農業を取り巻くあらゆる環境の特徴を指す、フランスで生まれた言葉であり概念です。「その土地ならではの味」を表現する際に使われます。
フルーツ王国うきはにつながる5人の庄屋の灌漑事業
うきはの水プロジェクトは、稲作や果樹栽培などの産業用水を引く大石長野水道などの保守管理も、重要な施策として含まれています。
「うきは市のある場所は、筑後川よりも高い場所にあることから、江戸時代初期までは農業用水の不足に悩まされていました。それを見かねた5人の庄屋が、自らの命を懸けて行った灌漑事業によってできたのが大石長野水道です」。
「工事の成功により、米をはじめ麦、柿、梨、ブドウなどの栽培にも適した、豊富な水と肥沃な大地のうきはが生まれました」。
5人の庄屋がつくった堰と大石長野水道は日本が誇る歴史的遺産です。
「うきは市のある場所は、筑後川よりも高い場所にあることから、江戸時代初期までは農業用水の不足に悩まされていました。それを見かねた5人の庄屋が、自らの命を懸けて行った灌漑事業によってできたのが大石長野水道です」。
「工事の成功により、米をはじめ麦、柿、梨、ブドウなどの栽培にも適した、豊富な水と肥沃な大地のうきはが生まれました」。
5人の庄屋がつくった堰と大石長野水道は日本が誇る歴史的遺産です。
清澄な水が産み出した、新たなまちの基幹産業
権藤さんは、清澄な水を活用した新たな産業についても教えてくれました。
「いま、うきはの湧き水や地下水を使った、うきは産ミネラルウォーターが、安価でおいしいと好評をいただいています。客室用として、うきはのミネラルウォーターを置く福岡市のホテルも多いのです。その意味では、水の環境を守ることは市の大事な産業を守ることにもつながると考え、取り組んでいます」。
うきは産のミネラルウォーターには、うきは名水株式会社の「うきはの天然水」と株式会社清水の「清水湧水」があり、個人版のふるさと納税の返礼品としても人気を集めています。さらにもうひとつ、興味深い話を明かしてくれました。
「『名菓ひよ子』で知られる株式会社ひよ子さんの冷菓商品は、じつは市内にある清水寺境内に湧き出る「清水湧水」を使用してつくられているのですよ」。
数百年湧き続ける清水湧水は、昭和60年(1985)には「名水百選」のお墨付きを得た、まちが誇る名水です。
「いま、うきはの湧き水や地下水を使った、うきは産ミネラルウォーターが、安価でおいしいと好評をいただいています。客室用として、うきはのミネラルウォーターを置く福岡市のホテルも多いのです。その意味では、水の環境を守ることは市の大事な産業を守ることにもつながると考え、取り組んでいます」。
うきは産のミネラルウォーターには、うきは名水株式会社の「うきはの天然水」と株式会社清水の「清水湧水」があり、個人版のふるさと納税の返礼品としても人気を集めています。さらにもうひとつ、興味深い話を明かしてくれました。
「『名菓ひよ子』で知られる株式会社ひよ子さんの冷菓商品は、じつは市内にある清水寺境内に湧き出る「清水湧水」を使用してつくられているのですよ」。
数百年湧き続ける清水湧水は、昭和60年(1985)には「名水百選」のお墨付きを得た、まちが誇る名水です。
自然への愛情を胸に、取り組みを未来へつなげる
インタビューも終盤。お話は、現状の課題から今後の計画へと進みます。
「これまでの調査分析から、我々がいま生活に使っている地下水は、山や森林に降る雨水が、何十年もかけて浄化されていることがわかっています。地下水を守るためには、この自然環境を一体的に守っていく必要があるわけです」。
「ただ、以前は森林には人の手が入っていたのですが、いまは高齢化もあって人手不足の状態で、荒廃地も少なくありません。山間部に3校あった小学校が、直近の5年間ですべて統廃合されたほど、林業や山間部の地域を支える担い手不足は深刻です。森林組合などと行政が、課題解決に向けた検討を行う方針です」。
一方で、水資源を観光に生かす取り組みも検討されているようです。
「5人の庄屋が行った灌漑工事を、歴史的な偉業として讃える碑や神社などを含めた、大石長野水道や大石堰、長野堰一帯においての社会科見学には、毎年数千人ほどの方が来訪されています。それをより強い観光資源とするための神社や公園の整備、自然環境の見せ方や、防波堤ができたあとの河川の余剰地をキャンプ場や公園に活用するかどうかなど、様々な点について、有識者なども参加して方針を検討しているところです」。
「また、大石長野水道や堰は名所にできないのかというお声を伺うのですが、じつは、逆サイフォン式の水路が目に見えないため、(直接見学することができず)悩ましいところなんです。VRを使った見せ方も議論していますが、難しい点もあり、まだ検討段階です」。
「ただ今後も、清らかな地下水で生活する数少ない自治体としての誇りと、それを与えてくれる自然への愛情をもって、未来へ向けた持続可能な取り組みを進めていきたいと思っています。ぜひ、プロジェクトを応援してください」。
市では、すでに行っているモニタリングや環境保全事業に、寄付目標額と同額の2億円ほどを一般財源から支出しています。企業版ふるさと納税で集まった寄付金は、水質の調査や保全、河川の管理、さらには山や森林の保全管理を含めたプロジェクト活動全体に充てていく予定です。
(オフィス・プレチーゾ 桜岡宏太郎)
【福岡県・うきは市】清流のまち うきはの水プロジェクト
「これまでの調査分析から、我々がいま生活に使っている地下水は、山や森林に降る雨水が、何十年もかけて浄化されていることがわかっています。地下水を守るためには、この自然環境を一体的に守っていく必要があるわけです」。
「ただ、以前は森林には人の手が入っていたのですが、いまは高齢化もあって人手不足の状態で、荒廃地も少なくありません。山間部に3校あった小学校が、直近の5年間ですべて統廃合されたほど、林業や山間部の地域を支える担い手不足は深刻です。森林組合などと行政が、課題解決に向けた検討を行う方針です」。
一方で、水資源を観光に生かす取り組みも検討されているようです。
「5人の庄屋が行った灌漑工事を、歴史的な偉業として讃える碑や神社などを含めた、大石長野水道や大石堰、長野堰一帯においての社会科見学には、毎年数千人ほどの方が来訪されています。それをより強い観光資源とするための神社や公園の整備、自然環境の見せ方や、防波堤ができたあとの河川の余剰地をキャンプ場や公園に活用するかどうかなど、様々な点について、有識者なども参加して方針を検討しているところです」。
「また、大石長野水道や堰は名所にできないのかというお声を伺うのですが、じつは、逆サイフォン式の水路が目に見えないため、(直接見学することができず)悩ましいところなんです。VRを使った見せ方も議論していますが、難しい点もあり、まだ検討段階です」。
「ただ今後も、清らかな地下水で生活する数少ない自治体としての誇りと、それを与えてくれる自然への愛情をもって、未来へ向けた持続可能な取り組みを進めていきたいと思っています。ぜひ、プロジェクトを応援してください」。
市では、すでに行っているモニタリングや環境保全事業に、寄付目標額と同額の2億円ほどを一般財源から支出しています。企業版ふるさと納税で集まった寄付金は、水質の調査や保全、河川の管理、さらには山や森林の保全管理を含めたプロジェクト活動全体に充てていく予定です。
(オフィス・プレチーゾ 桜岡宏太郎)
【福岡県・うきは市】清流のまち うきはの水プロジェクト