村が熱意をもって進める、インクルーシブ教育推進プログラム~沖縄県北中城村~
2022-04-13 08:00:00
インクルーシブ教育が行われる北中城村内の小学校

(写真)インクルーシブ教育が行われる北中城村内の小学校
14世紀に築城がはじまったとされ、ユネスコ世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」に登録されている「中城城跡」をはじめとする、多くの歴史文化資源をもつ沖縄県北中城村は、令和のいま、インクルーシブ教育の推進に力を入れています。

障がいのある子どももない子どもも、皆が同じ空間で一緒に授業を受けることで、教育を通じて共生社会の実現を目指していく「インクルーシブ教育システム」は、2006年の国連総会で採択された「障害者の権利に関する条約」のなかで示され、現在世界規模で進められている重要な取り組みです。

日本では2012年に、文部科学省の中央教育審議会初等中等教育分科会が「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」を報告しましたが、残念ながらまだ浸透しているとはいえない状況です。

このインクルーシブ教育の推進に、人口1万8,000人足らず(2022年2月末)の北中城村ではかれこれ10年ほど前から取り組み、2021年からは企業版ふるさと納税の寄付対象事業にしています。この事業の課題やこれからの方向性について聞くため、北中城村役場企画振興課企画係長の名幸真理さんにご登場いただきました。

保護者の要望、住民の支持を受けて進めてきたインクルーシブ教育

名幸さん
名幸さん(写真)には、まずこれまでのプロジェクトの経緯を伺いました。
「インクルーシブ教育は、障がいのある子どもの学習をサポートする支援員を、子どもたちの人数に合わせて配置することが重要だと考えています。村には村立の幼稚園が1園、小中学校が合わせて3校あります。以前は1校あたり支援員は数名でしたが、発達障がいの傾向がある子どもが、全国でも県内でも増加していることを受け、予算を増やし支援員の充実を進めたのが、今から10年くらい前のことです」。

ところで、村が手厚い対策を始めたきっかけはあったのでしょうか。
「障がいをもつ子の保護者から、特別支援学級ではなく普通学級で学ぶことを希望する声が圧倒的に多かったことがきっかけです。毎年行う保護者対象のアンケート結果からも、約9割の保護者が支援員によるサポートに満足されていることがわかっています。会議などの機会に、支援を必要としない子どもの保護者の意見も伺っていますが、インクルーシブ教育はたいへん高く評価されています」。

課題は、支援員のさらなる充実とスキルアップ

丁寧なサポートを行う支援員
(写真)丁寧なサポートを行う支援員

支援を必要とする保護者の声に応えるように進めてきた、北中城村のインクルーシブ教育プロジェクトですが、これまでには課題も見つかっているようです。
「今、全部で20名ほどの支援員が、各幼稚園・小中学校に配置されています。現状ではひとりの支援員が3名ぐらいの子どもたちを見ている状況ですが、ひとりの支援員が子どもをふたりを見る状態を目標に、取り組みを進めています」。

「支援員の募集は、基本的には教員免許をもっている人を中心に行っていますが、意欲のある人、興味のある人も採用しています。現在は免許をもつ人ともたない人がちょうど半分ずつくらいの割合で、なかには、障がいをもったお子さんを育てながら、ご自身の経験を地域にフィードバックしたいと、意欲的に貢献していただいている方もいらっしゃいます」。

「ただ、個々のスキルの違いなどから、子どもへの接し方が支援員によって異なるという点が課題になっています。対策としては、支援員全体のスキルアップを目指して、春、夏、冬の長期休みなどを利用した研修を行っています。具体的には、支援員同士で情報交換したり、お互いのやり方やスキルの共有(をしたり)などを行い、個々のレベルの差異を埋める工夫をしています」。

あと10年は事業を続けていくことが肝要

世界遺産・中城城跡の美しい夕景
(写真)世界遺産・中城城跡の美しい夕景

「今の目標としてはあと10年、この事業をしっかり続けていきたいと考えています。その間に支援員を増員・拡充し、同時に個々のスキルアップ、(全体の)レベルアップを図りたいのです」と名幸さんは今の目標を教えてくれ、さらに続けます。

「例えば、教員免許をもっている支援員は、中途で教員に採用されて辞職されることもあります。そんな場合に、支援員がもつノウハウやスキルを途切れさせず、いかに蓄積して次の新しい人に引き継いでいけるかがもうひとつの課題ですが、この点でも、人材を多く確保して、つねにレベルを高めておくことで、支援員の入れ替えがあってもカバーできると考えています」。

人材確保がこの取り組みの要であることに変わりはないようです。

インクルーシブ教育を、一緒に広めて欲しい

並んで座る子供たちの後ろ姿
北中城村ではここまでの取り組みを、厳しい村の財政から予算を確保して実行してきました。「多い時は支援員などの人件費だけで4,000万円ほど」という金額は、村に相当な覚悟がなければ支出することはできません。

「少しでも寄付をいただいて、人件費に充てたいと考えています。そのためにも、村のことや取り組みについて知っていただきたいのですが、なかなか…」と、名幸さんは正直な思いをうちあけました。

北中城村のインクルーシブ教育に期待した家族がほかの自治体から転入するなど、北中城村の施策は口コミでは知られてきたようです。ただ、もっと広く、全国的にどう知らしめるのかという方法については模索している最中です。
「ふるさとコネクトを活用したのは、多くの企業さんに取り組みを知ってもらいたいからでもあります。特別支援教育の教材や指導方法に精通している企業さんに村の取り組みを理解してもらい、情報共有したり試したり、いろいろ教えてもらいながら、インクルーシブ教育を一緒に広めていきたいと考えています」。

最後に、関心をもった企業には何を伝えたいか、名幸さんに聞いてみました。

「北中城村の自慢は、住民同士の距離が近く人々が温かいところです。そういう村で住民に見守られながら、障がいのあるなしや個々の特性などに左右されず、すくすく育った子どもたちはたくましく、人にやさしい子どもたちです。僕らの一番の強みである子どもたちを見て、感じて欲しいと思います」。

財政的に厳しいなか、インクルーシブ教育推進のために、村が毎年大きな予算を組んでいることには敬服の念を抱くところです。一方で、企業にとってはそれほど大きくないお金でも、北中城村を救うほどの価値をもつことも事実です。北中城村に関心をもたれた方々はぜひ、熱い援助を検討してください。
(オフィス・プレチーゾ 桜岡宏太郎)

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