【企業版ふるさと納税コンサルタントに聞く】失敗事例から学ぶ制度利用の落とし穴
2021-11-09 08:00:00
男が穴を覗く様子

企業版ふるさと納税制度を利用して寄付を行う場合、最大約9割の税の軽減効果をはじめ、様々なメリットがあります。ところが、制度についての理解が不十分だったために、期待した効果が得られなかった、あるいは寄付に至らなかった、などの声も聞かれます。

今回は、こうした失敗例や失敗しそうになった例を挙げてもらいました。これらを参考に、効果的な寄付につなげてください。

1 得られる控除額が違っていた!(自己負担額が想定よりも多かった!)

見当違いに困惑する様子
企業版ふるさと納税のメリットとして「実質1割負担」「約9割の税の軽減効果」というのが挙げられます。実際のところ、こうした言葉だけが独り歩きしており、どんなケースでも9割軽減されるという誤った認識が広がってしまっているのが実状のようです。
ざっくりいえば、約9割の軽減効果を得られるのは、寄付額が所得の1%程度まで。つまり、10万円の寄付で約9万円の軽減効果を得るには、1000万円ほどの所得が必要になります。

企業版ふるさと納税のメリットは税の軽減効果だけではないので、それだけで「失敗」とはいえませんが、税の軽減効果に期待して寄付する場合は十分にお気を付けください。

税控除額の計算はかなり複雑ですが、こちらの「税控除額シミュレーション」は、かなり正確に税控除額を計算できます。簡単に「寄付予定金額から自己負担割合の試算」と「税額控除額が最大となる寄付額」を算出できるので、最大限の税の軽減効果を得るためにぜひ活用してみてください。

税控除額シミュレーション

2 決算期をまたいでしまった!

男が谷を飛び越える様子
企業が寄付しようと思うタイミングで、いちばん多いのが決算期です。今期の業績の見通しが立った時点で寄付したいのはよくわかりますが、3月決算の企業は注意が必要です。というのも、自治体は3月締めの単年度予算で動いており、3月に受け取った寄付は年度内(3月中)に使い切る必要があります。そのため、寄付を申し出たのに断られたというケースや、翌年度に回されたというケースがありました。

これでは当初の「1割負担」の目的を果たせません。

こうしたことを回避するため、最近では事業のための基金を設定している自治体も増えています。基金が設定されている事業への寄付は、年度内に使いきれなくても翌年度に予算を持ち越せます。寄付先候補の自治体が絞れてきたら、寄付のタイミングを相談しておくと安心です。

また、自治体から発行される寄付の受領書がなかなか届かないというケースもよくあるそうです。特に決算月に寄付する場合は、受領書を早めに発行してもらうよう自治体に連絡しておいたほうがいいでしょう。

3 税理士に止められた!

ストップサインを出されている様子
寄付に至らなかったという意味で失敗といえるのが、税理士に相談したら止められたというケースです。税の軽減効果を考えるなら経費として使うことを逆に提案され、渋々寄付を思いとどまったという声がありました。

税理士が企業版ふるさと納税をおすすめしない理由はいくつかあります。ひとつは処理が複雑でよくわからないから。実際のところ、会計処理には複雑な計算が求められるので、できれば避けて通りたいというのは十分に理解できます。

もうひとつは、税の軽減効果以外のメリットを理解していないから。社会貢献やSDGsへの取り組み、自治体とのつながりを得られるなど、様々なメリットがあります。寄付の理由が税の軽減効果だけでないなら、税理士を全力で説得しましょう。

ちなみに、前述の「税控除額シミュレーション」では、税理士にも分かりやすいように控除の仕組みを解説しています。顧問税理士が二の足を踏んでいるようなら、ぜひ紹介してあげてください。

4 それ以外にも寄付に至らなかったケースはいろいろ

亀裂を挟んで議論している様子
主に大企業の場合ですが、役員会でひっくり返されたという声も意外に多いといいます。部長クラスと自治体で寄付の調整を進めていたところ、役員会での決裁が下りずに寄付に至らなかったというケースです。原因のひとつは、なぜこの自治体なのか、なぜこのプロジェクトなのかを十分に説明できなかったからです。
また、自治体側の受け入れ体制が十分でなかったため、スムーズに寄付できなかったという例もありました。

寄付を行う場合、寄付金額や寄付のタイミングを検討するのはもちろん、税理士や役員、自治体との事前の調整も平行して行っておいたほうがよさそうです。
これらの失敗例を参考に、スムーズで効果的な寄付に役立ててください。
(企業版ふるさと納税コンサルタント 小坪拓也)