【大臣表彰に選ばれるには理由がある!自治体編】令和2年度受賞 岐阜県飛騨市徹底取材
2021-12-27 08:00:00
映写と見学者たち

岐阜県飛騨市には、いくつもの世界最先端の研究を行う施設があります。そこで行われる研究をわかりやすく学べる科学館をつくり、交流人口を増やす取り組みのため、市長が率先して動き、職員も東奔西走して企業版ふるさと納税を募りました。結果は累計額1億4860万円に及ぶ寄付を受け施設は完成。充実した展示内容の評価も高く、「令和2年度地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)に係る大臣表彰」を受けました。

宇宙科学館をつくり、宇宙研究のまち飛騨のブランド化を目指す

映写と見学者たち
飛騨市は、ノーベル物理学賞を受賞したふたりの物理学者、小柴昌俊博士と梶田隆章博士にゆかりのまち。両博士がニュートリノという素粒子の研究を進めてきたまちであり、そのために使用する研究装置、昭和58年(1983)完成のカミオカンデと、平成8年(1996)から稼働するスーパーカミオカンデがあるまちなのです。

両博士がノーベル物理学賞を受賞した際の、まばゆいばかりの研究施設内を紹介する映像を記憶する人も少なくないはずです。じきに、ノーベル物理学賞受賞のニュースによって関心を持った人々から、施設の見学を希望する声が寄せられました。しかし世界トップレベルの研究施設で見学を受けることは難しいことでした。

そこで、市内で行われている宇宙物理学研究をわかりやすく紹介する施設として、市は2019年3月に「ひだ宇宙科学館 カミオカラボ」を開館させました。
「カミオカラボは既存の建物を改修して科学館にしているのですが、企業版ふるさと納税の寄付金は、その費用に使っています」と、飛騨市市民振興課宇宙物理学支援室でカミオカラボを担当する櫻井孝太朗さんが教えてくれました。

ひだ宇宙科学館 カミオカラボ

市長のトップセールスで、ゆかりの企業が続々参画

映写と見学者たち
「『飛騨神岡宇宙最先端科学パーク構想』とよぶ、宇宙科学館を整備するプロジェクトは、都竹淳也市長の主導で始動し、企業や(研究の主体者である)大学への説明も市長が率先したことで大きく動きました。飛騨市と関わりのある企業が続々参画してくれたのです。カミオカンデもスーパーカミオカンデも、明治初期から三井金属グループが所有してきた鉱山跡につくられていますが、この三井金属をはじめ多くの企業の協力により、1億4860万円の寄付が集まりました」。

櫻井さんが話してくれた取り組み結実までの舞台裏はそのまま、「令和2年度大臣表彰」受賞のポイント、「市長自らが企業を直接訪問して、17の企業から寄附を獲得するとともに、官民学による一体的な取組を行うことで、臨場感のある施設の整備につなげている」に重なります。

交流人口を増やす決め手は、ほかの観光資源とのマッチング

レールの上をマウンテンバイクで走る男女
「カミオカラボは『道の駅 宙ドーム・神岡(スカイドーム神岡)』に併設されています。道の駅の併設なら、市民だけではなく、市外や県外から道の駅にいらっしゃった方も、ふらっと見学されるのではないかと考えたからです。気軽に立ち寄れるよう、入館料も無料なんです」と、櫻井さんが明かした市の目論見は功を奏します。当地で行われている宇宙物理学研究を、まるで疑似体験するように知ることができる施設として好評を博し、開館初年度は13万人の来館者を集めました。

「残念ながらコロナ禍の影響を受け、2020年度以降の入館者数は減少していますが、今は、仮想区間上に設けたバーチャルカミオカラボや、オンライン会議システムを使って開催する(団体向けの)オンラインガイドツアーなどで、来館が叶わない皆さんへ向けた情報発信を続けています」。

「今後は、室町から戦国時代の武将・江馬氏の館跡にある江馬氏館跡公園や、旧神岡鉄道のレールをマウンテンバイクで走るレールマウンテンバイクGattan go!!といった、市のほかの観光資源とも組み合わせ、魅力的な観光資源として活用することを考えています。鉱山に繋がる旧神岡鉄道の廃線を利用したGattan go!!を体験すれば、同じ鉱山跡にあるスーパーカミオカンデ内の空気感も理解しやすいんですよ」。飛騨市の交流人口を増やす取り組みは、これからも続きます。

ニュートリノという素粒子を手がかりに、宇宙の成り立ちを解明しようとする最先端の研究。それが行われている飛騨市は、特別な立場を存分に活かしつつ、トップダウンの取り組みで、企業版ふるさと納税プロジェクトを巧みに成功させていました。