「人は、信頼とストーリーへの共感によって動く」 企業版ふるさと納税に応用する、社会を動かすPRの考え方
2021-11-29 08:00:00
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企業と地方の繋がりの強化を目的に始まった企業版ふるさと納税。地域外の企業にプロジェクトの魅力を知ってもらい、さらに寄付に参加してもらうにはどうすればよいのか、悩まれている自治体担当者の方も多いのではないでしょうか。そんな時に役立つのが、PR=Public Relationsの考え方です。プロモーションや広告宣伝に留まらない「PR」本来の意味を知ることで、プロジェクトへの共感者を獲得する方法が見えてくるでしょう。

人の行動を変えるためには、信頼され、相手の心を動かすことが必要

商品を買ってもらうにしても、寄付を募るにしても、人に何らかの行動を起こさせるためには、その商品やプロジェクトを信頼してもらい、対象者の心を動かす必要があります。どんなに商品のメリットを伝えても、信頼を得られなかったり、その人の心が動かなかったりすれば、その人は商品を買うという行動に移りません。
信頼 イメージ画像
直接会える関係性であれば、信頼を得たり、人の心を動かすことは難しくないかもしれません。一緒に食事をする、贈り物をする、自分の想いを直接伝える、色々な方法が考えられます。一方で、直接会うことができない人に信頼してもらい、心を動かすには、どのようにすれば良いのでしょうか。ましてや、会ったこともない人からプロジェクトへの寄付を募るとなると、心を動かすことのハードルはとても高いように思われるかもしれません。そこで参考にしたいのが、「PR」の考え方です。

Public Relationsとは、共感を通じて世の中の人と関係性を結ぶ全ての行為

PRと聞くと、「宣伝」や「プロモーション」の略語を思い浮かべる方もいるかと思いますが、元の英語は「Public Relations(パブリックリレーションズ)」であり、「個人や組織が世の中の人々(Public)と関係性(Relations)を結ぶ行為のこと」を指します。企業や官公庁が、市場や社会に自身を知ってもらい、信頼を得るために行われる活動の全てはPublic Relationsであるといえます。例えば、メディアやSNSを通じた情報発信で信頼と共感を得る行為は、代表的なPublic Relationsの一活動です。
PRイメージ PCと新聞紙
企業版ふるさと納税にも、Public Relationsと情報発信の考え方を応用できます。プロジェクトの価値をわかりやすく発信し、取り組みを理解・信頼してもらったうえで地域の中と外を一つにして、動かしていく。そのためには「自治体が、市場や社会とどのように良好な関係性を築いていくか」というPublic Relationsの視点が必要不可欠です。

Public Relationsに基づいた情報発信を実行するうえで重要なことは、「認知され、信頼され、共感される情報発信をいかに組み立てるか」であるといえます。どんなに自分たちが良いと思っているプロジェクトでも、関係者に知ってもらい、共感を得るというプロセスを経なければ、多くの人たちを動かすことはできないからです。

信頼と共感の源泉はストーリー。ストーリーを表現できれば、伝わり、共感され、人が動く

では、「多くの人に認知され、信頼され、共感される情報発信」は、どのように行うことができるのでしょうか。鍵となるのが、「ストーリー」という要素です。

人は、単なる情報の羅列よりも、筋道だったストーリーがあった方が物事を鮮明に記憶することができます。さらに、ストーリーがあれば、そのストーリーの登場人物に感情移入します。感情移入することで、まるでそのストーリーをあたかも、自分が体験しているように感じます。登場人物の心が大きく動いた時、自分の心も動き、行動が変わっていくのです。また、ストーリーは信頼を得る際にも有効です。人は、自分と同じストーリーを語る人間を、仲間、すなわち信頼できる存在として認識する傾向があるからです。
ストーリーイメージ ノートと万年筆
国や企業、社会団体などが、社会や人々を「私たちは、どこから来て、どこへ向かうのか」という一つのストーリーで統合していくという手法は古今東西、様々な場面で用いられてきました。例えば、1965年に独立したシンガポールの初代首相、リー・クアンユー氏の建国時のテレビ演説は、異なる人種、異なる宗教をもつ人々に国としてのヴィジョンとストーリーを明確に語ることで、国民としてのアイデンティティをもたせたのでした。20世紀以降、新聞やテレビの普及とともに理論が確立されてきたPublic Relations。国や企業は情報発信を通じて、より多くの人の心を動かし、社会にムーブメントを起こすことが可能になったのです。

企業版ふるさと納税の発信にもストーリーを

近年、インターネットやSNSの発達により、誰もが情報発信を行える時代が訪れました。Public Relations本来の考え方に基づいて、人々の信頼や共感を呼び起こし、社会のムーブメントを起こす主体になれるのは、国や大企業だけでありません。「多くの人に認知され、信頼され、共感される情報発信」を行うことで、小さな自治体からでも社会的なムーブメントを起こすことができるようになったのです。
畑と海、太陽
企業版ふるさと納税を推進するにあたっても、関係者がそれぞれ想いをもって、自分の言葉でストーリーを語れるようになることが、共感者を募り、寄付を集めるために有効であるといえます。自分たちが、なぜ、どのような想いでプロジェクトを始めたのか、プロジェクトを通じて何を目指すのか、じっくり語り合うのも良いかもしれません。