【あのプロジェクトの今に迫る】郷土の偉人渋沢栄一顕彰×継承プロジェクト~埼玉県深谷市~
2021-11-26 08:00:00
旧渋沢邸

2021年の大河ドラマの主人公として、また2024年度から発行される新1万円札の肖像として、改めて注目を集める渋沢栄一翁。幕末から昭和にかけての激動の時代を駆け抜け、「近代日本経済の父」とよばれる大実業家が生まれ育ったのは埼玉県深谷市でした。このプロジェクトは、郷土の偉人の功績を広く知らしめ、栄一翁ゆかりの施設を整備して観光資源として活用しようとするものです。企業版ふるさと納税を活用した深谷市の取り組みは高く評価され、令和2年度「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)に係る大臣表彰」を受賞しました。
今回は受賞に至るまでの深谷市の取り組みや、プロジェクトの「いま」を紹介します。

偉人の功績を顕彰し旧渋沢邸「中の家(なかんち)」を整備する

深谷市企画課の倉林有一さん(=写真左)と萩原純一さん(=写真右)
今回お話を伺ったのは、プロジェクトを推進する深谷市企画課の倉林有一さん(=写真左)と萩原純一さん(=写真右)。「渋沢栄一翁の故郷である深谷市には、栄一翁ゆかりの地が数多く残っています。しかし生地である旧渋沢邸『中の家』は、主屋などの建物に対して耐震改修を行う必要があることから、十分な公開をすることができていませんでした」とプロジェクトの当初から関わってきた萩原さん。そこで深谷市では、企業版ふるさと納税を活用したプロジェクトを立ち上げました。

プロジェクトは大きく分けて3つ。まず、「大河ドラマ館」の企画運営など、渋沢栄一翁をテーマとした地域振興事業を展開する「渋沢栄一政策推進事業」。次に旧渋沢邸「中の家」主屋の耐震改修工事などを行う「旧渋沢邸『中の家』整備活用事業」。そして、渋沢栄一アンドロイドによる「道徳経済合一説」講義などを体験する「渋沢栄一顕彰事業」です。これらを通して、渋沢栄一翁が生涯の規範とした「論語と算盤」の精神を広め、栄一翁ゆかりの施設を整備し、文化財の保護とともに観光資源として活用することで郷土の偉人顕彰による文化振興と地域の活性化を図ります。

市の職員の奮闘で企業との新しい信頼関係を構築

旧渋沢邸
「事業を進めるにあたっては、市長をはじめ、市の職員が様々な企業に積極的にアプローチを図りました」と話す萩原さん。その結果として、栄一翁に感銘を受けた全国各地の企業から多くの賛同を得ることができたといいます。こうして得た寄付金を活用し、渋沢栄一翁ゆかりの企業を紹介する企画展の開催や、旧渋沢邸「中の家」主屋改修のための構造調査、大河ドラマ館の企画運営支援などを実施しました。これらの取り組みの結果、深谷市を訪れる観光客数は増加し、寄付を契機とした企業との新しいパートナーシップも生まれました。

「大臣表彰応募に当たっては県からの推薦が必要ですが、複数回にわたって埼玉県に取り組みの経緯を説明したことで推薦を受けることができました」と萩原さん。
その結果、見事に大臣表彰を受賞します。
「市が一丸となって取り組んだことで得られた支援や、寄付をいただいた企業の想いを本プロジェクトの推進に生かすということが、企業版ふるさと納税のあるべき姿として取り上げられたのでは」と萩原さんは受賞理由を分析します。

その後、埼玉県とは地方創生の取り組みで連携することとなり、国の地方創生推進交付金を活用した「渋沢栄一翁が主人公となる大河ドラマ・新一万円札発行を基軸とした深谷・埼玉への誘客プロジェクト」を共同で進めているそうです。

いよいよ旧渋沢邸「中の家(なかんち)」主屋の耐震改修工事が着工

旧渋沢邸「中の家」主屋
企業からの寄付による支援もあって、旧渋沢邸「中の家」主屋の耐震改修工事(本体工事)が2022年1月に着工されることが決まりました。「完了は2023年3月末の予定。しばらくは主屋を見られなくなります」と話す倉林さん。「耐震改修工事後は、いま建物の外から見学いただいている和室部分にも上がることができるようになり、さらにその奥には体験型の展示などが公開されます」。栄一翁が帰郷の際に寝泊まりしていた部屋で現在プレ公開されている、和装姿の渋沢栄一アンドロイドもここに配置される予定です。
和装姿の渋沢栄一アンドロイド
※写真はイメージ図です。実際の展示とは異なります。

「施設内には、寄付企業の銘板も設置する予定です。これまで寄付をいただいた企業への感謝の意を表し、訪れた方に周知していければ」と倉林さんは続けます。改修後の銘板の設置場所は検討中とのことですが、改修工事中は主屋の正面向かって右側にある「土蔵Ⅱ」前に設置されています。訪問の際には、ぜひご覧ください。
寄付企業の銘板

寄付を契機とした企業とのパートナーシップが、新たな事業連携へ

渋沢栄一ブロンズ像と建築物
2021年、渋沢栄一翁没後90年の節目の年を迎えるにあたり、その記念事業として「渋沢栄一ひとづくりカレッジ」プロジェクトが始まりました。これは、栄一翁の精神を胸に様々な変革に挑戦してきた企業や企業経営者の知恵を学ぶ場を提供し、新たな時代を切り開く人材を育成するための取り組みです。

2022年2月15日には、キックオフイベントとして「渋沢栄一 ひとづくりフォーラム」が開催されます。このフォーラムでは、企業版ふるさと納税による寄付企業・伊那食品工業の代表取締役社長である塚越英弘氏のほか、渋沢栄一賞受賞企業の経営者などを招き、パネルディスカッションなどを行う予定です。「今後も渋沢栄一翁ゆかりの企業や、企業版ふるさと納税による寄付企業などと連携しながら、渋沢栄一ひとづくりカレッジプロジェクトを進める予定です」と話す倉林さん。企業版ふるさと納税を活用した取り組みは、それをきっかけに新たな局面へと動き出しました。

ピンチはチャンス。栄一翁の精神でふかやの魅力を発信したい

深谷市企画課の倉林有一さんと萩原純一さん
深谷市では、この「郷土の偉人渋沢栄一顕彰×継承プロジェクト」を継続しているほか、「深谷ねぎのまちから日本の農業を変える3つのプロジェクト」にも取り組んでいます。これは、深谷市の強みである農業を核として、アグリテック(agriculture×technology)による産業集積や、野菜をテーマとした誘客促進、地域内経済循環を高めるための地域通貨の導入を推進し、「儲かる農業都市ふかや」の実現を目指すというもの。ひとつひとつのプロジェクトが魅力的で、全てが連携し合ったらどんなことになるのか、考えただけでワクワクするようなプロジェクトです。

「現在の日本は、新型コロナウイルス感染症やそれに伴う経済危機、自然災害など、先行きの見えない状態が続いています。栄一翁の生きた時代に似た状況にあるといえますね」と話す倉林さん。「栄一翁は、その生涯においてチャレンジ精神をもち続け、悲観することなく多くの困難や挫折を乗り越えてきたと思います。その精神は、深谷市が大切に受け継ぐべきもの。ピンチはチャンスと捉え、ふかやの魅力ある取り組みを全国に向けてPRしていきたいと考えています」と意気込みを語ってくれました。

「そして、寄付だけではない企業との長期的なパートナーシップを構築してまいりたいと考えています。多くの企業の皆様からのご支援をお待ちしています」。