【大臣表彰に選ばれるには理由がある!自治体編】令和2年度受賞 岡山県瀬戸内市 徹底取材
2021-11-16 08:00:00
日本刀が展示されている様子

この岡山県瀬戸内市の「山鳥毛(さんちょうもう)里帰りプロジェクト」は、企業版ふるさと納税だけでなく、ファンディング(資金調達)の実績として史上最大規模の寄付を集めたことで、とても有名な事案となりました。
今回、このプロジェクトが令和2年度「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)に係る大臣表彰」を受賞されました。同賞は企業版ふるさと納税の制度活用において、特に顕著な功績を上げ、他の模範となると認められる活動を行った企業や地方公共団体に送られるものです。
この瀬戸内市の取り組みを、以下に紹介します。

国宝の刀「山鳥毛」を瀬戸内市へ。備前刀の里帰り

海と空の風景
瀬戸内市は人口約3万7000人。岡山市南東部に位置し、瀬戸内海に面しています。漁業が盛んであることはもとより、農業も市の主産業です。
また同市の長船町は過去、刀剣の生産地として名を成し、平安・鎌倉時代には、ここで作られる「備前刀」は首座を占めていました。戦国・桃山時代には、この地で刀の大量生産が行われましたが、「刀狩り」によって刀需要が衰退した上に、吉井川の大洪水により多くの刀匠が流され、「備前長船」は壊滅的打撃を受けたといわれています。
瀬戸内市(旧長船町)では、日本刀の歴史を紹介すべく、1983年に日本刀を専門展示する全国でも珍しい施設「備前長船刀剣博物館」を作りました。

2018年1月に国宝である備前刀「山鳥毛(さんちょうもう)」を譲りたい、という話が市に舞い込みます。この刀は、作風からこの地で作られたものとされています。また、博物館には国宝級の刀がなく、「山鳥毛」を瀬戸内市に迎えることは、刀剣文化の継承、観光資源としての活用など、大きな効果をもたらすことが期待されました。
しかし大きな課題もありました。刀の譲渡価格と、その資金捻出です。瀬戸内市は市民の税金を充てるのではなく、刀剣を愛する方々から広く寄付を募ることとし、2018年5月に、ふるさと納税を活用することにしました。

過去最大規模の寄付額

刀を打っている様子
刀の価格は、外部評価委員会の評価で算出しましたが、その額(資産価値)は5億円。また山鳥毛を展示するための施設整備も必要であり、その額も加えた5億1309万円をファンディングの目標としました。
ファンディングは、「企業版ふるさと納税」「(個人版)ふるさと納税を基本としたクラウドファンディング」などの複数の手法を組み合わせました。
市長が直接企業回りをして寄付のお願いをした効果もあり、ファンディング開始から3カ月で2億5000万円の寄付が集まります。このまま順調に進むかと思いきや、6カ月目に寄付額の伸びがストップ。刀の購入額を税で賄わず、寄付を募ったにも係わらず、このプロジェクトに異議を唱える方々も出てきます。この時期、プロジェクト関係者は体も心も疲弊しきっていたといいます。しかし、そこでめげることなく関係者は、あらゆる手立てを講じていきます。

資金調達のための瀬戸内市の企画数も最大規模

ラッピングされたトラックの様子
市役所方々をはじめ、関係者の打ち出した「手立て(企画)」は多岐にわたりました。ほんの一部ですが紹介しますと「寄付者に山鳥毛の共同オーナーになってもらう」「山鳥毛が市に里帰りしたら何をする? アイデアコンテストの実施」「前所有者のご厚意のもと、山鳥毛を借用して1週間限りの一時里帰り展の開催」などです。

それらが結実し、2020年3月には目標を大きく上回る、8億8000万円超の寄付が集まりました。そして山鳥毛は瀬戸内市に里帰りを果たします。

このうち、企業からの寄付は154件、3億1201万円となりました。前述の市長の直接アプローチの他、「博物館に寄付企業名を展示」など企業向けの企画も数々実施されました。
また、上の写真のトラックには、山鳥毛の画と「ふるさと納税にご協力ください」の文字がラッピングされました。このPRは企業側からの申し出で実現した企画でした。プロジェクトへの寄付に加え、一緒に盛り上げていった企業の姿勢は市内外の多くの方の目に映ったことでしょう。

支援いただいた企業には、プロモーション効果や、名誉感をもってもらいました。また、このプロジェクトに協力したい、という企業の参加意識も醸成され、瀬戸内市は最大規模の支援を集めることができました。